素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 訳がわからないと首を傾げる彼女の脇を通り過ぎて、一番遠くに居たゴトフリーの腕を掴んだ。その長袖のシャツに包まれた腕は見た目より筋肉質で太い。鍛え上げられた異性の体を感じてドキリとした。その一瞬の動揺を振り切るように笑って言った。

「私、この人持って帰る」

 そのいきなりの宣言に、一同ぽかんとしてまた笑い声が起きた。大きな体をしたエディは腹を抱えて笑っている。

「ちょっとアリス。ご迷惑でしょ。この子今日は飲みすぎてて酔っ払いだから本当にごめんなさいね」

 リリアが慌ててアリスの傍まで来ると、あまりの事態に呆気に取られているゴトフリーに頭を下げた。

「いや、俺は別に……」

 やっぱり赤い顔をして口籠ったゴトフリーの腕を引っ張ると、店の外まで出てその大きな手を握った。鍛錬の成果だろう、手の皮は硬くてゴツゴツとしていた。

「ね、行こう?」

 長身のゴトフリーに背伸びして笑いかけると、戸惑ったままでついて来る彼の手を握ったままアリスはおぼつかない足取りで走りだした。ヒュウとまた口笛が鳴ってリリアが自分を呼び止める声が聞こえた気がしたけど、アリスはそのまま振り向かなかった。

 歩く人がまばらになっている表通りは走りやすくて、冷たい空気が酔って火照った顔に気持ち良かった。

 明るい月明かりに照らされて走る二人の影がどこまでも着いてくる。自分達の間にある何かのしがらみにも思えてそれを振り切るように懸命に走った。
< 12 / 292 >

この作品をシェア

pagetop