素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 ゴトフリーは鍵を仕舞いながら自分を見るアリスに意を決したように声をかけた。

「あの、俺今日はここで帰るよ。良かったらまた連絡したいから、フルネームと勤務先……」

 教えて、と言いかけたゴトフリーを塞ぐようにアリスは彼の肩に手をかけると背伸びして彼に触れるだけのキスをした。初めて触れた唇は柔らかくて温かかった。

(わー、人生はじめてのキスだ)

 それがこの目の前の彼で本当に良かったと浮かれた頭のどこかで思った。

 とんとちいさな踵の音がするまで、二人とも動かなかった。それが一瞬のことだったのか、時間が止まったようにも思えて、その瞬間からきらきらと世界が輝き出したようにも思えて。

「良いから。行こう」

 また手を引いて歩き出したアリスにゴトフリーは逆らわなかった。ガシャンと先ほど開けたばかりの扉の鍵が閉まった音だけ夜の冷えた空気に響いた。

 アリスの住む部屋は二階の奥まった部屋だ。時間も時間だけに二人は何も言わないままに階段を上がって、また部屋の鍵を開けると中に入った。寒い季節、今まで主のいなかった部屋は冷えた空気をいっぱいにして迎えてくれる。
< 14 / 292 >

この作品をシェア

pagetop