素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
◇◆◇

 嫌な汗が体中から吹き出しているのを感じる。不快な気分だけが体と心を占めている。いくつもの下卑た男たちの声が冷えた空気に響いている。

(ここは……どこ?)

 何かで縛られているのか、体が動かない。地面に横になったまま、重い瞼を開けた。

 ゆらり、と揺れるような視界の中に見えるのは、古びてもう使われなくなってしまっていた教会のような建物の中の内部だろうか。いくつもの等間隔に置かれた椅子。倒れているものも多いが、装飾もあって高そうだ。天井が高いのか、上には大きな空間が広がっている。暗い。

(……アレック……私今、なんか、古い、使われていない教会みたいなところに居る……こわい……こわいよ)

 今も半信半疑だが、ゴトフリーの相棒であるアレックに呼びかける。あの賢い生き物が自分の竜騎士を乗せて、迎えに来てくれることを信じたかった。このまま、近くに居る男たちに想像したくもない仕打ちを受けた上に殺されてしまうことなど、絶対に考えたくなかった。

 死にたくないと泣き叫んで、のたうちまわりたかった。でもそれは叶わない。体の中で自由になるところは頭の中だけと言える程に体中がんじがらめに縛られていたし、口には猿轡だろうか、何か乾いた布のようなものが口の中まで大きく入り込んでいて、ひどく不快だった。

「笑いが止まらんぜ。女一人を攫って売るだけでこんなに貰えるなんてな」
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