素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 なんでも、幼い頃に好んで読んだ本に魔法の絨毯に乗って砂漠を旅する騎士の物語があったらしい。目を輝かせて上目遣いでそのお願いをする彼女を可愛さのあまり抱きしめたのは記憶に新しい。

 文官になれるくらい頭が物凄く良い癖に夢見がちでどこか幼いところがある彼女を、自分は本当に心から愛している。

 睡眠を重要視するアレックだが自分の恋人であるアリスをとても気に入っていて、彼女を喜ばせるならなんでもするとまで言っているから、今も機嫌の良さそうな鳴き声をしんとした夜の空気に響かせている。

 季節柄もあり、砂漠の夜は冷えるから、アリスはこのために用意しておいた紺色の大きな分厚いマントを頭から被っている。目の前でそのさらさらとした黒髪が風に揺れるのを見るのは好きだが、彼女の体が冷えるのを防ぐことが最優先だ。可愛い彼女を守るためなら、なんでもすると誓っている。

「アリス、見て、駱駝だ。商隊だよ」

 恐らく炎天下の昼の移動を避けて過ごしやすい夜に移動をしているのだろう、隊列を組んで進む行商人たちだ。まるで物語の中の一ページのような光景にアリスはまた喜んだ声を出した。

「凄い。どこまで行くのかな」
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