素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 その書類はまるで文字を書くことが仕事である代筆屋で頼んだような流麗な文字で書かれ、しかもきちんと枠内に全て収まるように文字の大きさまで計算し尽くされていた。言葉もなくじっとその書類の文字に見入っていたが、こんな文字を書くのは誰なのだろうという軽い気持ちでその名前を目にした。

「ゴトフリー・マーシュ。竜騎士かぁ」

 思わずこぼれてしまったちいさなその呟きは、月末が近く戦争のような様相を繰り広げている同僚たちのがやがやとした喧騒にのまれて誰の耳にも届かなかった。

 その美しい文字を書く名前の人は誰なのだろうか。そんな気持ちはアリスの心に、ぽつんと突然落ちて波紋を広げた。

 そしてその機会は皮肉にも、隣国と戦っていた時にあった。長い戦いの中、戦闘能力が高く前線に配置される竜騎士は基本出ずっぱりだ。だが、戦場からすぐに移動出来る手段を持つ竜騎士は、交代で帰って来る時ももちろんある。

「はい、これよろしくお願いします」
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