素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
「アリス、また泣きそうになってる」

 振り返ってくすっと笑ったゴトフリーの言葉に、彼にお礼の言葉を言おうとしていた口はすんでのところでむっとした言葉を言った。

「なってないから」

「俺以外の男の前で泣いちゃ駄目だよ」

 その言葉になぜかあの時だけ意地悪になる優しいはずの彼の見事な肉体を思い出してしまって、アリスは赤くなってしまった。

「も、もうっ……からかわないで。さっきの、どこの言葉なの?」

「んー、今使節団が滞在しているアイザスの隣にあるサルータっていう砂漠のある国。多分使節団にお供に着いてきた人が慌ててしまって母国語が出ちゃったみたいだね」

「慌ててた、って?」

 不思議そうに聞いたアリスに、ゴトフリーはにこっと笑う。

「漏らしそうになってたんだよ、必死でトイレの場所聞いてたよ。サルータ語の選択授業受けといて良かったよ。こんなものいつ使うのかよって思いながら、勉強していたけど、初めて役に立ったな。今アリスを助けられた」

 そのゴトフリーの言葉にアリスはそれならあの勢いも理解出来る、と思った。知らない国に来ていてしかも仕事で来ている城の中だ。大失態を犯す事態にひどく慌ててしまうのも仕方ないだろう。

「あの……ゴトフリー、何カ国語出来るの?」

 何気なく聞いたアリスにゴトフリーはなんでもないことのように、信じられないことを言った。
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