素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
 城の中にある年中無休で開放されている大浴場で体を伸ばしてのんびり出来るのは良いのだが、今回アリスはお気に入りの石鹸を持ってくるのを忘れてしまっていて、いまいちその黒い直毛のまとまりが悪かった。

(まぁ、当分の間はゴトフリーに会える訳じゃないし……)

 本当に多忙すぎて自分の見た目など気にしていられる状況でもない。でもだからこそ、好きな人に会いたいような会いたくないような複雑な乙女心だった。

 仮眠室のシーツはもちろん洗濯したてだけど、昨日は誰がここで寝たのかとかは決して考えてはいけない。文官が共用の仮眠室だし、年度末忙しいのは計数室だけではないからだ。

 アリスは連日の事務作業で疲れた目の辺りを揉みこんでから、ふわっと欠伸をしながら、お日様の匂いのする布団に潜り込んだ。

 どこか夢の遠くでゴトフリーの独特な低い声がした気がして、アリスは嬉しくなった。淡い憧れからはじまった彼への思いは、夢の中だけでも会えたらと思えるほどまで大きくなっていた。

「……サハラ室長、お疲れ様です」
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