星まかせの恋
うお座女子の特徴その6 周りの意見に左右されやすい
とりあえず私は藤代さんと1ヶ月間「お試し交際」をすることになった。
藤代さんの私を想う強い言葉に、正直心はぐらりと揺れた。
水族館のロマンチックなシチュエーションの波に乗っかってしまおうかとも考えた。
けれどやはり星座占いの相性が心に引っ掛かってしまうのもまた正直な思いだった。
藤代さんが言う通り、私は馬鹿なのかもしれない。
もしかしてこれまでも、星占いに拘ってきたせいで良いご縁を見送って来てしまったのかもしれない。
思い起こせば走馬灯のように、次々と今まで関わってきた男性の顔と名前、そしてその星座が頭の中を駆け巡る。
大学時代に同じゼミをとっていた牡羊座の彼。
リーダーシップがあって頼りがいがある彼は友達として接するにはすごく気楽で良かったけれど、彼氏になったとたん社交的でアクティブ過ぎる性格に疲れてしまい、三か月でお別れしてしまった。
本屋のバイト先で知り合ったおとめ座の彼は、知的で落ち着いた雰囲気が魅力的だったけれど、星座の相性を気にしている間に同僚の女の子に先を越されてしまった。
どの恋も運命の相手ではなかったのだと、どこか星座の相性のせいにしていた節があることは否めない。
そして厄介なことに、だからこそ次の恋は絶対に星の指し示す相手と最高の恋をすることを目標にしている自分に気付くのだ。
自棄になっているのかもしれないけれど、それくらい星占いというものに私の恋は動かされている。
藤代さんと会っておしゃべりしたり、美味しいものを食べることはすごく楽しい。
だからこそ、彼氏になってから失うことが怖い。
やっぱり星の巡り合わせが悪かったのだと落胆することが怖い。
一か月のお試しだとしても、藤代さんとお付き合いをすることを話しておかなければならない人物がいた。
加奈子だ。
加奈子が藤代さんを狙っていたのにも関わらず、私が黙って藤代さんと交際するのはフェアじゃない。
高校時代からの集合場所である喫茶店「春うさぎ」に私と麗華、そして加奈子は顔を揃えた。
ここ「春うさぎ」で私と加奈子と麗華は青春の一時期を密に過ごし、嫌味な担任教師の悪口や恋の悩みなど色んなことを話し合った。
加奈子が可愛い後輩男子に言い寄られてどう対処したらよいのかを意見交換したり、麗華が彼氏との箱根旅行で脱バージンをしたという報告を聞いて盛り上がったこともあった。
高校を卒業してからも、定期的に3人で集まっては、お互いの近況報告をし合っている。
そもそも先日の合コンも、別の飲み会で山崎智樹と知り合った麗華が、フリーの私達のために設定してくれた場だった。
一番早く店に着くのは決まって私だ。
人を待たせるのが苦手だし、約束時間に遅れるのは言うまでもない。
麗華は時間ピッタリに、加奈子は大抵遅れてくる。
今日も待ち合わせ時間の10分遅れに到着して、プラダのバッグを投げ出し、ソファー席にドサッと座った。
「やっほー。遅れてゴメンね~。」
加奈子は全然悪びれない様子でそう言ってピースをした。
「お疲れ。仕事、早めに切り上げられたんだ?」
「うん。ミーティングが前倒しになってさ。」
加奈子は化粧品会社の開発部門でチーフをしているバリキャリだ。
今日もハイブランドのベージュのパンツスーツで決めている。
仕事が忙しく気も強いので、なかなか彼氏が出来ないといつもぼやいている。
フェミニンな花柄プリントのワンピースを着ている麗華は加奈子と正反対のおっとり気質で、友人が個人経営している無添加食材を売りにしているカフェでアルバイトをしている。
実家が地主で資産家なため、アルバイトでも悠々自適で生活が出来ているようだ。
麗華はつい最近までカフェの常連客だった証券マンと付き合っていたのだけれど、金銭感覚の違いで別れてしまったらしい。
テーブルの上にはこの店の一番人気であるメニューで、レトロなガラスの皿にバナナと黄桃とキウイ、そして紅色のさくらんぼが綺麗に飾られた、濃厚なカラメルソースが美味しいプリンアラモードが3つ置かれている。
これも高校時代からの私達の定番スイーツだ。
それぞれがプリンを銀色のスプーンで掬って口に入れる。
「う~ん。美味しい!やっぱりプリンはここのが一番!」
「濃厚な卵の味とバニラエッセンスの香りがシンプルにいいのよね!」
「うん。プリンはここしか勝たん!」
毎度のお約束で懐かしい味を褒めちぎり舌鼓を打つと、自然と話題は先日の合コンの反省会となった。
「やっぱり男の価値はリーダーシップが取れるかどうかで決まってくると思うのよね。人の心を動かす人間がいざってときに求められるものなのよ。」
加奈子は職場で求められる人材を語るように、そう力説した。
「それって山崎さんの采配が良かったって言いたいわけ?」
麗華の言葉に加奈子は頷いた。
「そうね。まあ顔はそれなりだけど、人柄で言ったら山崎さんが一番だったと思うわ。ダンナにしたら旅行の計画とかサクッと決めてくれそう。」
加奈子は藤代さん狙いだったんじゃないの?と口から出そうになったけれど、藤代さんのことを今言うのは控えようと思い直し、私は黙ったままでいた。
「でもあのファッション評論家みたいな眼鏡はちょっと悪趣味だけどね。」
麗華がスプーンを加奈子の方へ向けた。
「男なんてダサいくらいで丁度いいのよ。ファッションにお金を使うような男は女関係で苦労しそうだもの。」
「あのテニスの彼はどう?」
「あー今井さんね。テニスで都大会まで行ったってハナシ、何度するんだ!ってツッコミたかったわ。中学時代のことを延々と自慢されてもね~。いや、スポーツマンなのはいいことだとは思うけどさ、体育会系の男ってなんか暑苦しい。」
「ちょっと鼻につくよね~。」
「でもそういう男って子供にスポーツを教えたがるものなのよ。だからいいパパにはなりそう。」
「うんうん。遺伝子で子供も運動神経のいい子が産まれるかもね。」
加奈子と麗華がやいやいと話すのを聞きながら、男性陣もこんな風に私達の品定めをしているのかもしれないと思うと、背筋がゾっとした。
「藤代さんは・・・イケメンだけど・・・ねえ。」
「なんか協調性がなさそう。」
「場の空気が読めないっていうか。」
「ミステリアスって言えば聞こえはいいけど、ただの面倒くさがり屋ってカンジもするし。」
二人の言葉に私は思わず反論した。
「そんなことないわ。ああみえて実は優しいし繊細なところもあるの。」
「・・・千鶴がなんでそんなこと知ってるの?」
「・・・・・・。」
黙り込んだ私を加奈子と麗華が不審な顔でじっと見つめた。
私はこのタイミングを逃さないように、話を切り出した。
「あとでいざこざが起きるのは嫌だから単刀直入に言うわ。私、藤代さんと付き合ってるの。一か月のお試しだけど。今日はそれをちゃんと二人に報告したくて。」
すると加奈子と麗華はスンとした表情で、顔を見合わせた。
そしてパチパチと拍手をしながら、棒読みな台詞回しで私を祝福した。
「へえー。よかったじゃん。」
「おめでとー。」
「加奈子、怒ってないの?藤代さんなんてやめなさいって忠告した私が付き合うことになっちゃって。」
「別に~。そうなるかなって思ってたし。だって藤代さん、千鶴を完全にロックオンしてたもん。」
「え?そうだった?」
「気づいてなかったの千鶴だけだよ。私と話してる時も露骨に千鶴の様子を伺っちゃってさ。
でも安心してよ。私は千鶴の良さに気付いた藤代さんを応援したいと思ったの。だからそうなって嬉しい。」
「加奈子のそういうサッパリとしたところが好きよ。」
私が加奈子の両手をひしっと掴むと、加奈子も「私も千鶴の隠し事をしない性格、悪くないと思ってるし。」とニンマリ笑った。
ヘタな恋愛漫画のような三角関係に悩まなくて済むのは有り難かった。
「でもなによ。一か月お試しって。」
「うん。私と藤代さんって星占いの相性が最悪でしょ?だから一か月付き合ってみて、相性が合わないって思ったらお付き合いを解消してもいいって言われたの。」
「はあ?!何それ。藤代さん優しすぎでしょ。どう考えても星占いなんて興味なさそうなあの人がそこまで考えてくれるなんてさ。あんたみたいな星占いに取り憑かれた女にそこまでしてくれる男なんて、藤代さんを逃したらもうチャンスないよ?早いとこ決めちゃいな!」
「そうよ。あの人恰好いいんだから、グズグズしてると他の女に取られちゃうよ!」
加奈子と麗華に責め立てられ、私は視線を落とした。
「うん。私もそう思ってる。」
藤代さんは第一印象こそ悪かったけれど、思った以上にとても優しくて男らしくて、私にはもったいないくらいの人だ。
少しでも連絡がないと不安になる私に、藤代さんはマメにラインや電話をくれる。
食事のメニューをパッと決められない私を、藤代さんは嫌な顔ひとつせず待っていてくれる。
淋しがり屋で優柔不断な性格はうお座女性の特徴だ。
そんな私に嫌気を差さないでいてくれる、ということは相性はそんなに悪くないのではなかろうか・・・と強く思う今日この頃だったりする。
「で、実際のところどうなの?藤代さんとの相性は。」
麗華が好奇心満々で目を輝かせている。
「自分では悪くないと思っているわ。笑いのツボも会話の間も一緒だし、お互いの好きな事をシェアしあって楽しめるの。」
「そうじゃなくて、アッチの相性よ。」
「え?アッチって?」
「カラダの相性ってこと!」
「・・・下世話なこと聞かないでくれる?」
「ええー?大事なことだと思うけどなあ。」
「そうよ!肌が合わないって言葉もあるもんね。」
そう加奈子がまぜっかえす。
「千鶴言ってたじゃない。付き合う人とは結婚を見据えるって。だったらちゃんとその辺も確かめないと!」
「でもそういうことって、その場のムードとか流れが大事なんじゃない?」
私は困ったときの癖で眉尻を下げた。
「そうだけどさ。長く続かせたいなら、そこの相性も大事よ?」
「藤代さんてなんかムッツリっぽいよね。あと性欲も強そう。にんにくとか好きじゃない?無駄に栄養ドリンク飲んでない?」
「ああいうスカした男が意外と特殊な性癖持ってたりするのよね。赤ちゃんプレイが好きとかさ。」
「SM好きだったらどうする?しかもMの方だったりして!」
「苛めて下さい女王様~なんて言われたら、千鶴どうするよ~。」
「ちゃんと避妊してくれる?そういうとこで男の本性が出るからね。」
二人からの怒涛の質問攻めに私は耳を塞いだ。
「だから私と藤代さんはまだそういう関係じゃないんだってば!」
そう言いつつも、藤代さんの性癖を妄想しながら盛り上がる二人を尻目に、私も今後のお付き合いについて考え込んだ。
加奈子や麗華のふざけた言葉にも、一理あるかもしれないと思った。
もしちゃんとお付き合いするなら、結婚も見据えて考えなければならない。
そうなると夜の相性も大切だ。
私と藤代さんはまだキスすらしていない。
藤代さんはこの問題についてどう考えているのだろうか?
藤代さんの私を想う強い言葉に、正直心はぐらりと揺れた。
水族館のロマンチックなシチュエーションの波に乗っかってしまおうかとも考えた。
けれどやはり星座占いの相性が心に引っ掛かってしまうのもまた正直な思いだった。
藤代さんが言う通り、私は馬鹿なのかもしれない。
もしかしてこれまでも、星占いに拘ってきたせいで良いご縁を見送って来てしまったのかもしれない。
思い起こせば走馬灯のように、次々と今まで関わってきた男性の顔と名前、そしてその星座が頭の中を駆け巡る。
大学時代に同じゼミをとっていた牡羊座の彼。
リーダーシップがあって頼りがいがある彼は友達として接するにはすごく気楽で良かったけれど、彼氏になったとたん社交的でアクティブ過ぎる性格に疲れてしまい、三か月でお別れしてしまった。
本屋のバイト先で知り合ったおとめ座の彼は、知的で落ち着いた雰囲気が魅力的だったけれど、星座の相性を気にしている間に同僚の女の子に先を越されてしまった。
どの恋も運命の相手ではなかったのだと、どこか星座の相性のせいにしていた節があることは否めない。
そして厄介なことに、だからこそ次の恋は絶対に星の指し示す相手と最高の恋をすることを目標にしている自分に気付くのだ。
自棄になっているのかもしれないけれど、それくらい星占いというものに私の恋は動かされている。
藤代さんと会っておしゃべりしたり、美味しいものを食べることはすごく楽しい。
だからこそ、彼氏になってから失うことが怖い。
やっぱり星の巡り合わせが悪かったのだと落胆することが怖い。
一か月のお試しだとしても、藤代さんとお付き合いをすることを話しておかなければならない人物がいた。
加奈子だ。
加奈子が藤代さんを狙っていたのにも関わらず、私が黙って藤代さんと交際するのはフェアじゃない。
高校時代からの集合場所である喫茶店「春うさぎ」に私と麗華、そして加奈子は顔を揃えた。
ここ「春うさぎ」で私と加奈子と麗華は青春の一時期を密に過ごし、嫌味な担任教師の悪口や恋の悩みなど色んなことを話し合った。
加奈子が可愛い後輩男子に言い寄られてどう対処したらよいのかを意見交換したり、麗華が彼氏との箱根旅行で脱バージンをしたという報告を聞いて盛り上がったこともあった。
高校を卒業してからも、定期的に3人で集まっては、お互いの近況報告をし合っている。
そもそも先日の合コンも、別の飲み会で山崎智樹と知り合った麗華が、フリーの私達のために設定してくれた場だった。
一番早く店に着くのは決まって私だ。
人を待たせるのが苦手だし、約束時間に遅れるのは言うまでもない。
麗華は時間ピッタリに、加奈子は大抵遅れてくる。
今日も待ち合わせ時間の10分遅れに到着して、プラダのバッグを投げ出し、ソファー席にドサッと座った。
「やっほー。遅れてゴメンね~。」
加奈子は全然悪びれない様子でそう言ってピースをした。
「お疲れ。仕事、早めに切り上げられたんだ?」
「うん。ミーティングが前倒しになってさ。」
加奈子は化粧品会社の開発部門でチーフをしているバリキャリだ。
今日もハイブランドのベージュのパンツスーツで決めている。
仕事が忙しく気も強いので、なかなか彼氏が出来ないといつもぼやいている。
フェミニンな花柄プリントのワンピースを着ている麗華は加奈子と正反対のおっとり気質で、友人が個人経営している無添加食材を売りにしているカフェでアルバイトをしている。
実家が地主で資産家なため、アルバイトでも悠々自適で生活が出来ているようだ。
麗華はつい最近までカフェの常連客だった証券マンと付き合っていたのだけれど、金銭感覚の違いで別れてしまったらしい。
テーブルの上にはこの店の一番人気であるメニューで、レトロなガラスの皿にバナナと黄桃とキウイ、そして紅色のさくらんぼが綺麗に飾られた、濃厚なカラメルソースが美味しいプリンアラモードが3つ置かれている。
これも高校時代からの私達の定番スイーツだ。
それぞれがプリンを銀色のスプーンで掬って口に入れる。
「う~ん。美味しい!やっぱりプリンはここのが一番!」
「濃厚な卵の味とバニラエッセンスの香りがシンプルにいいのよね!」
「うん。プリンはここしか勝たん!」
毎度のお約束で懐かしい味を褒めちぎり舌鼓を打つと、自然と話題は先日の合コンの反省会となった。
「やっぱり男の価値はリーダーシップが取れるかどうかで決まってくると思うのよね。人の心を動かす人間がいざってときに求められるものなのよ。」
加奈子は職場で求められる人材を語るように、そう力説した。
「それって山崎さんの采配が良かったって言いたいわけ?」
麗華の言葉に加奈子は頷いた。
「そうね。まあ顔はそれなりだけど、人柄で言ったら山崎さんが一番だったと思うわ。ダンナにしたら旅行の計画とかサクッと決めてくれそう。」
加奈子は藤代さん狙いだったんじゃないの?と口から出そうになったけれど、藤代さんのことを今言うのは控えようと思い直し、私は黙ったままでいた。
「でもあのファッション評論家みたいな眼鏡はちょっと悪趣味だけどね。」
麗華がスプーンを加奈子の方へ向けた。
「男なんてダサいくらいで丁度いいのよ。ファッションにお金を使うような男は女関係で苦労しそうだもの。」
「あのテニスの彼はどう?」
「あー今井さんね。テニスで都大会まで行ったってハナシ、何度するんだ!ってツッコミたかったわ。中学時代のことを延々と自慢されてもね~。いや、スポーツマンなのはいいことだとは思うけどさ、体育会系の男ってなんか暑苦しい。」
「ちょっと鼻につくよね~。」
「でもそういう男って子供にスポーツを教えたがるものなのよ。だからいいパパにはなりそう。」
「うんうん。遺伝子で子供も運動神経のいい子が産まれるかもね。」
加奈子と麗華がやいやいと話すのを聞きながら、男性陣もこんな風に私達の品定めをしているのかもしれないと思うと、背筋がゾっとした。
「藤代さんは・・・イケメンだけど・・・ねえ。」
「なんか協調性がなさそう。」
「場の空気が読めないっていうか。」
「ミステリアスって言えば聞こえはいいけど、ただの面倒くさがり屋ってカンジもするし。」
二人の言葉に私は思わず反論した。
「そんなことないわ。ああみえて実は優しいし繊細なところもあるの。」
「・・・千鶴がなんでそんなこと知ってるの?」
「・・・・・・。」
黙り込んだ私を加奈子と麗華が不審な顔でじっと見つめた。
私はこのタイミングを逃さないように、話を切り出した。
「あとでいざこざが起きるのは嫌だから単刀直入に言うわ。私、藤代さんと付き合ってるの。一か月のお試しだけど。今日はそれをちゃんと二人に報告したくて。」
すると加奈子と麗華はスンとした表情で、顔を見合わせた。
そしてパチパチと拍手をしながら、棒読みな台詞回しで私を祝福した。
「へえー。よかったじゃん。」
「おめでとー。」
「加奈子、怒ってないの?藤代さんなんてやめなさいって忠告した私が付き合うことになっちゃって。」
「別に~。そうなるかなって思ってたし。だって藤代さん、千鶴を完全にロックオンしてたもん。」
「え?そうだった?」
「気づいてなかったの千鶴だけだよ。私と話してる時も露骨に千鶴の様子を伺っちゃってさ。
でも安心してよ。私は千鶴の良さに気付いた藤代さんを応援したいと思ったの。だからそうなって嬉しい。」
「加奈子のそういうサッパリとしたところが好きよ。」
私が加奈子の両手をひしっと掴むと、加奈子も「私も千鶴の隠し事をしない性格、悪くないと思ってるし。」とニンマリ笑った。
ヘタな恋愛漫画のような三角関係に悩まなくて済むのは有り難かった。
「でもなによ。一か月お試しって。」
「うん。私と藤代さんって星占いの相性が最悪でしょ?だから一か月付き合ってみて、相性が合わないって思ったらお付き合いを解消してもいいって言われたの。」
「はあ?!何それ。藤代さん優しすぎでしょ。どう考えても星占いなんて興味なさそうなあの人がそこまで考えてくれるなんてさ。あんたみたいな星占いに取り憑かれた女にそこまでしてくれる男なんて、藤代さんを逃したらもうチャンスないよ?早いとこ決めちゃいな!」
「そうよ。あの人恰好いいんだから、グズグズしてると他の女に取られちゃうよ!」
加奈子と麗華に責め立てられ、私は視線を落とした。
「うん。私もそう思ってる。」
藤代さんは第一印象こそ悪かったけれど、思った以上にとても優しくて男らしくて、私にはもったいないくらいの人だ。
少しでも連絡がないと不安になる私に、藤代さんはマメにラインや電話をくれる。
食事のメニューをパッと決められない私を、藤代さんは嫌な顔ひとつせず待っていてくれる。
淋しがり屋で優柔不断な性格はうお座女性の特徴だ。
そんな私に嫌気を差さないでいてくれる、ということは相性はそんなに悪くないのではなかろうか・・・と強く思う今日この頃だったりする。
「で、実際のところどうなの?藤代さんとの相性は。」
麗華が好奇心満々で目を輝かせている。
「自分では悪くないと思っているわ。笑いのツボも会話の間も一緒だし、お互いの好きな事をシェアしあって楽しめるの。」
「そうじゃなくて、アッチの相性よ。」
「え?アッチって?」
「カラダの相性ってこと!」
「・・・下世話なこと聞かないでくれる?」
「ええー?大事なことだと思うけどなあ。」
「そうよ!肌が合わないって言葉もあるもんね。」
そう加奈子がまぜっかえす。
「千鶴言ってたじゃない。付き合う人とは結婚を見据えるって。だったらちゃんとその辺も確かめないと!」
「でもそういうことって、その場のムードとか流れが大事なんじゃない?」
私は困ったときの癖で眉尻を下げた。
「そうだけどさ。長く続かせたいなら、そこの相性も大事よ?」
「藤代さんてなんかムッツリっぽいよね。あと性欲も強そう。にんにくとか好きじゃない?無駄に栄養ドリンク飲んでない?」
「ああいうスカした男が意外と特殊な性癖持ってたりするのよね。赤ちゃんプレイが好きとかさ。」
「SM好きだったらどうする?しかもMの方だったりして!」
「苛めて下さい女王様~なんて言われたら、千鶴どうするよ~。」
「ちゃんと避妊してくれる?そういうとこで男の本性が出るからね。」
二人からの怒涛の質問攻めに私は耳を塞いだ。
「だから私と藤代さんはまだそういう関係じゃないんだってば!」
そう言いつつも、藤代さんの性癖を妄想しながら盛り上がる二人を尻目に、私も今後のお付き合いについて考え込んだ。
加奈子や麗華のふざけた言葉にも、一理あるかもしれないと思った。
もしちゃんとお付き合いするなら、結婚も見据えて考えなければならない。
そうなると夜の相性も大切だ。
私と藤代さんはまだキスすらしていない。
藤代さんはこの問題についてどう考えているのだろうか?