殺すように、愛して。
 初めて発情期を迎えた日から、漠然とした何かが狂い始めていた。俺も、黛も、それから両親も、少しずつ、少しずつ、独りでに、頭のネジが緩んでいっているかのようで。その起因にもなっているオメガがいなければ、俺がオメガじゃなければ、時空が歪むように関係が捩れることもなかったのだろうか。

 考えたところで性別が変異するわけでもないのに、どうして、どうして、と解決できない問いばかりがぐるぐると渦を巻く。どうして、どうして、俺は、オメガとしてこの世に生まれ落ちてしまったのだろう。両親は二人ともアルファなのに。弟の由良だって、アルファ、なのに。ちゃんと両親の血を継いでいるのに。どうして。俺は。アルファでもベータでもなくて、救いようのない最下層の、オメガ、なのか。

 オメガ、オメガ。どうして。俺は。なんで。オメガ。オメガ、だから、両親は、俺を忌み嫌って。殺す。オメガ、だから、黛は、俺に迫って。壊す。オメガ、が、近くにいるから、狂う。何もかも。狂う。オメガ。オメガ。それが、足枷だ。オメガ、が、足枷だ。オメガが。オメガが。オメガだから。オメガだから。ぐるぐる、ぐるぐる。繰り返される。

 俺は。オメガ。オメガ。両親は。黛は。由良は。アルファ。アルファ。俺は。オメガ。俺だけ。オメガ。他は。違う。違う。オメガ。じゃない。違う。オメガ。違う。違う。アルファ。アルファ。アルファ。みんな。アルファ。なんで。なんで。俺は。オメガ。として。生きて。息を。して。アルファ。が。羨ましい。なんて。両親が。黛が。由良が。羨ましい。なんて。ああ。もう。本当。狂ってる。
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