殺すように、愛して。
 押し付けてでも返却する予定だったルーズリーフと、受け取った、いや、受け取らされたと言った方が正しいだろうか、また新たなルーズリーフを突っ込んだカバンを片手に、足元を見ながら少し大股で歩いて。その間に、淀んだ気持ちを切り替えた。首輪をつけている時点で彼らは俺の変化に気づかざるを得ないだろうが、それを顔に出して余計な心配をかけさせたくはない。深刻になりたくないから、何食わぬ顔で接して、首輪のことに触れられても適当に流せるだけの心の余裕を持って、彼らの話を傾聴しよう。黛に何をされただとか、何を言われただとか、生徒会室での一件を詳らかに話す必要はない。普通に。普通に。何事もなかったように笑ってしまえ。

 首輪をつけた状態で黛以外の人に会おうとしていることに緊張してしまっているのか、意図せず肩に力が入り、ほんの少しだけ息も上がった。心臓が縮み上がっているかのよう。落ち着かず、手を握ったり、閉じたり。首輪に触れたり、なぞったり。忙しなく手を動かし、ごくりと唾を飲んだ俺は、辿り着いた教室をそろそろと覗き込んだ。人が、いる。いた。帰っているかも、と思っていた彼らが、そこにいた。

 ひとまずホッと胸を撫で下ろし、一言、俺が声をかける前に気配を感じたらしい彼らが、まだ残ってくれていた三人が、ほぼ同時にこちらに顔を向けて。そうして、驚いたように目を見開き、鳴海、と心配そうな声色で俺の名字を呼んだ。目が、合わない。僅かに下がっている。視線は首輪に注がれているような気がした。
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