殺すように、愛して。
 無言になって顔を逸らしてしまう俺に、ごめん、野暮だったな、と気を遣って、自ら出した話題を取り上げる彼は、俺との距離感を上手く掴めないでいるのか、気まずさを感じるように一瞬だけ息を止めた、ような気がした。続けられる言葉がない。その静寂が、俺の気に障らないように慎重に台詞を選んでいるようにも感じ、自分は顔色を窺われるほど偉くなんかないということを伝えたくて、大丈夫だよ、気にしないで、と気を遣っている人に自分も気を遣ってしまった。それで気まずさが払拭できるわけではないが、無言の時間が長く続いてしまうと、お互いに切り出すタイミングを見失ってしまうだろう。彼らは俺に話したいことがあって声をかけたのだから、俺はそれを口にしやすくするように促せばいいだけだ。ギスギスとした空気の中、呼吸や嚥下や衣擦れといった微かな音のみで人語の跳ね返りがないのは息が詰まる。

「……俺に、話したいことって、何?」

 背けていた顔をゆるりと彼らの方に向け、思い切って聞けば、え、あ、あー、えっと、と歯切れ悪く返答された。黛のことなんじゃないかとある程度の予想はできていても、それを口にすることは憚られ、ギリギリまで躊躇う彼らの言葉を黙って待つことに徹する。

 三人は顔を見合わせ、それから、居住まいを正して俺に目を向けた。笑いのない厳粛な態度に緊張が走る。これから真面目な話をされるのだと思うと、自然と気が引き締まった。へらへらと誤魔化してばかりではいられない。全ての元凶になっているような俺がそんな姿勢では、失礼に値する。教室に重たい沈黙が走って数秒、一人が静かに、息を、吸った。
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