殺すように、愛して。
 首輪をつけている、イコール、社会的地位の低いオメガだということを明かしているようなものなのに、オメガだと知られる前よりも警戒心が緩んでしまっていた。慣れは初心を鈍らせる。首輪をつけているから大丈夫だと、俺は何の根拠もなくそう過信していたのだ。首輪なんて、項を守るだけのものに過ぎないのに。オメガ自体は、守れないのに。そもそもこの首輪は、俺のではなく黛のもので、黛本人につけられたものなのに。急所を隠しているからといって、大丈夫だと安心してはいけなかった。

 気怠い期末テストを終えた数日後、日に日に暑さが増していく7月中旬。採点された解答用紙も全て返却され、校内は放課後を迎えていた。人知れず、手元にある用紙に目を落とした俺は、小さく重たい溜息を吐く。発情期で一週間休んだ分の授業の遅れを取り戻すべく、いつもより勉強をしたつもりだったが、点数はどの教科も平均的で、中にはそれ以下の点数もあり、これは誰にも見せられないものだと、数字で優劣がつけられるそれを折り畳んでファイルに挟み、カバンにしまう。合計点数や各教科の点数で誰々に勝っただ負けただと盛り上がる教室をそそくさと後にして、帰りたくはないが、帰る場所はそこしかないため、帰らざるを得ない家を目指した。両親が帰ってくれば、テスト内容は当然違えど、優秀な由良の答案用紙と比べられてしまうだろう。見せられない。見せたくない。不甲斐ない。

 俺の頭は、お世辞にもいいとは言えなかった。学年主席の黛のノートを写させてもらったのに、残念ながら俺の頭には何も残っておらず、ただ、どこを鍛えているのか知れない手の運動をしただけだった。家で一人、両親に震えながら一人、自分なりの方法で勉強しても、集中力も理解力も何もかも、まだまだ足りなかったようで。それが数字に表れてしまっている。努力しても、しきれていないのだろう、成績は伸び悩んでいた。
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