殺すように、愛して。
 瀬那は、俺の番だよ、と甘い響きを持った声で付加するように囁かれ、高鳴る心臓をペットボトルで突きながら俺を簡単に転がしていた黛に抱き寄せられる。興奮。陶酔。多幸感。心が満たされていく。やっと、包んでくれたことに、心が、溶かされていく。

 黛から香る、欲を煽るような甘ったるい匂いは、俺の頭をおかしくさせた。まゆずみ。まゆずみ。まゆずみ。黛に迫られると、ダメになる。知能や言葉すら奪われて、周りが見えなくなって、視界が淡いピンク色に染まるのだ。その色は、時と場合によってはいやらしい色となる。今は、それだ。犯されている時は真っ黒だった分、急激な変化に酔いそうだった。否、酔っていた。俺は黛に酔わされていた。

 瀬那、と何度も名前を呼ぶ黛の手が多量の水分を吸い取った髪を触り、梳き、撫で、首輪まで降りていった。上から項を触られる。俺が噛んでいいと言うまで噛まないと宣言した黛だったが、途中で気が変わることがないとは言えなかった。噛まないよ、瀬那、と噛まれるかもと人知れず背中をゾクゾクとさせてしまっていた俺を嘲笑うように耳元で息を吐いた黛は、恍惚とする俺を胸に抱いたまま、一緒に帰ろうね、瀬那、と最後の最後まで俺の心を奪取するのを抜かりなく徹底的に実行したのだった。
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