殺すように、愛して。
往復してくれるかどうか確証もない中、黛を待ち焦がれ、存在を消そうと尽力していると、不意に、物音一つしていなかった二階から誰かが降りてくる気配を感じた。由良だろうか。由良に違いない。由良は両親に気に入られているから、俺と関わらなければ何をしても怒号を浴びせられることはないが、彼自身がそれに居心地の悪さを感じているのは誰の目にも明らかだった。両親は由良を見ているようで見ていない。由良も由良で息苦しさを覚えているんじゃないかと、俺の存在がそうさせているんじゃないかと、何も言われていないのに勝手に想像し、卑屈になった。俺が出来損ないのオメガのせいで、希望通りアルファとして生まれてきた由良が親の期待を全部背負ってしまっている。プレッシャーを感じているだろうに、彼が俺に、お前のせいで、などとぶつかってくることはなかった。一歳しか変わらないのに、しかも弟なのに、俺よりも随分と大人びて見える。文句を言わない、言えない、言い出せない環境にしているのも、俺と両親の間にある亀裂のせいなのだとしたら、由良は紛れもなく被害者だった。重荷を一緒に背負えない。軽くさせてあげられない。
「……おかえり、兄さん」
由良の足は、最初からそのつもりだったかのように、俺のいる玄関へと進んでいた。背後からかけられた声が、柔く、弱く、俺の心を突く。こんな乱れた姿は見せたくないと思っておきながら、自分をちゃんと認識して、言葉を選びつつも声をかけてくれたことが、純粋に、泣きたくなるほど、嬉しかった。黛とはまた違う、真逆の、由良独特の温かさに安心する。
「……おかえり、兄さん」
由良の足は、最初からそのつもりだったかのように、俺のいる玄関へと進んでいた。背後からかけられた声が、柔く、弱く、俺の心を突く。こんな乱れた姿は見せたくないと思っておきながら、自分をちゃんと認識して、言葉を選びつつも声をかけてくれたことが、純粋に、泣きたくなるほど、嬉しかった。黛とはまた違う、真逆の、由良独特の温かさに安心する。