殺すように、愛して。
ボロボロになっているであろう顔を見られたくなくて、振り返ることをしないまま、由良を見ずに、ただいま、と不躾に短く、小さく、言葉を返した。微妙に声が震えていた。由良の耳に届いたかどうか定かではなかったが、もう一度、確かめるように、うん、おかえり、と柔らかい声色で告げられたことから、彼に自分の言葉は届いたのだと悟る。二回目だったが、無視はしたくなくて、俺はこくりと頷いた。おかえり。ただいま。たったそれだけのやり取りが、俺を元の俺に戻してくれるようだった。
ありふれた四文字のコミュニケーションの後、由良は遠慮がちに俺の隣、少し距離を空けた場所にそっと寄り添うように腰を下ろし、膝を抱えて蹲った。その様子を横目で一瞥すると、俺の顔を見ないようにか、由良も顔を見られたくないのか、彼は抱えた膝に顔を埋めていた。
自宅の玄関。間隔をあけて兄弟で並んだとしても、しばらくの間は、これといった会話はない。それでも、ほんの少し、気休め程度かもしれないが、荒んで崩れて壊れかけた心が安らいでいくのを実感していた。両親の目を気にしながら行う兄弟の密会のようなそれは、リビングにいるであろう大人二人にはまだ気づかれていない。気づいてほしくない。このままで、いい。
「……誰かと、黛先輩、かな、帰ってきた気配は感じたけど、二階に上がってくる雰囲気はなかったから、心配で、また、良くないこと考えてるんじゃないかって思って、降りてきた」
何があったかなんて聞かないから、少しの間だけ兄さんの隣にいさせて。俺を気にかけ、懇願するようにぽつりと漏らした由良の声は、籠もって小さく聞こえたが、俺の胸には大きく響いた。死にたいと思って、死のうとしたことを、由良は知っている。だからこそ、また俺が自分を殺すような自傷行為をしているんじゃないかと案じてくれたのかもしれない。
ありふれた四文字のコミュニケーションの後、由良は遠慮がちに俺の隣、少し距離を空けた場所にそっと寄り添うように腰を下ろし、膝を抱えて蹲った。その様子を横目で一瞥すると、俺の顔を見ないようにか、由良も顔を見られたくないのか、彼は抱えた膝に顔を埋めていた。
自宅の玄関。間隔をあけて兄弟で並んだとしても、しばらくの間は、これといった会話はない。それでも、ほんの少し、気休め程度かもしれないが、荒んで崩れて壊れかけた心が安らいでいくのを実感していた。両親の目を気にしながら行う兄弟の密会のようなそれは、リビングにいるであろう大人二人にはまだ気づかれていない。気づいてほしくない。このままで、いい。
「……誰かと、黛先輩、かな、帰ってきた気配は感じたけど、二階に上がってくる雰囲気はなかったから、心配で、また、良くないこと考えてるんじゃないかって思って、降りてきた」
何があったかなんて聞かないから、少しの間だけ兄さんの隣にいさせて。俺を気にかけ、懇願するようにぽつりと漏らした由良の声は、籠もって小さく聞こえたが、俺の胸には大きく響いた。死にたいと思って、死のうとしたことを、由良は知っている。だからこそ、また俺が自分を殺すような自傷行為をしているんじゃないかと案じてくれたのかもしれない。