殺すように、愛して。
 黛。黛。黛。黛。どこ行ってたの。何してたの。俺を置いて。置き去りにして。黛。黛。黛。早く、触って。触って。俺、待ってたよ。待ってたから、触って。どこに行って、いつ戻って来るのかも分からない黛を、待ってた。待ってたから。黛。黛。俺、黛を、待ってた。黛。黛。触って。俺。まだ。汚れたまま。黛。

「瀬那、首輪外れてるよ。俺との約束守れてないね」

 徐々に徐々に、淡いピンク色が視界に流れ込んでくる中、俺を見下げる黛の淡白な声が落下した。黛、と綺麗ではない玄関に未だ寝そべったまま、涙や涎で濡れた唇を弱々しく動かす。指摘された首輪は、いつの間にか手放してしまっていて。上がり框付近に、俺と同じ目線に、円を切ったままの状態で取り残されていた。両親に気づかれなかったのは、ギリギリ死角になって見えなかったからかもしれない。

 黛は目についた適当な靴を勝手に拝借し、落ちていた首輪を拾って俺の体に跨ると、椅子に座るように、約束を守らなかった罰を与えるように、躊躇なく腹の辺りに腰を下ろした。息が詰まるような重量感や圧迫感が胸を突き、喘ぎながらも掬いを求めるようにして黛の制服のズボンを掴む。苦しむ俺の顔を覗き込むように見下ろす黛は、まずは首輪を付け直すところから始めようね、と俺の首と胸の間に首輪を落とし、俺自身につけさせようとした。

 息が乱れる。胸が跳ねる。俺の上に座って、俺の挙動を凝視する黛の視線に狂った俺の体は高揚し、俺は落とされた首輪を徐に手に取っていた。顔の両サイドと真正面、上半身を支配され、見えている世界が狭まっているように感じながら、黛の下で、向けられる瞳孔の開いた鋭い視線の前で、俺は無防備だった項を指示されるがままに自ら保護した。誰でも外せるただの首輪で。
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