殺すように、愛して。
 黛は、ずっと、じっと、俺を見ていた。何も言わず、黙って、俺が首輪を締めるのを、見ていた。その射るような眼差しに、脳が溶かされる。頭に魔法をかけられ、どこにでもある普通の首輪が、重たくて冷たい、凶暴な鎖のように感じる中、俺は自分から、黛が所有するその鎖に絡んでいた。滑稽だった。滑稽な俺の姿を見て、黛は薄く笑みを浮かべていた。口元だけで微かに嗤う黛は、鎖を首に巻きつける俺を手中に収める。収めて、収めたのに、それでもまだ足りないとでも言うように、彼は首輪の先端を掴み、俺の体を浮かせるほど強引に引っ張った。絞まる首。惚ける脳。悶える声。惚ける目。苦しむ体。惚ける心。

 あ、あ、黛、死ぬ。死ぬ。死ぬ。黛。あ、黛。死ぬ。まゆずみ。しぬ。しぬ。おれ。しぬ。

 死ぬかもしれないことに全身が熱くなる。物も言わずに首を絞めながら、依然として俺を見下ろす黛の眼光に胸が大きく高鳴って。理性が壊れ始め狂っていった。浮いた上半身の筋肉がぷるぷると震え、息ができない上に楽な姿勢が見つからない。頭がより重たく感じ、少しでも力を抜けばガクンと落ちてしまいそうで。ある種の拷問だった。その拷問に、俺は目の前をチカチカと明滅させていた。しぬ。しぬ。しぬ。

 気道を塞がれ無様に喘ぐ俺。命を握る、少量ではあるが血の付着した治安の悪い極悪な手とは逆の、まだ何も握っていない手持ち無沙汰な方の手で、俺の頬を柔らかく撫で始める黛。愛撫のようなそれと、壊れそうなほどの首絞め。飴と鞭を同時に与えられ、苦痛を感じているのに恍惚として、恍惚としているのに苦痛を感じて、苦痛、恍惚、恍惚、苦痛、気が狂ってしまいそうだった。このまま()れるか否か。俺を狂わす黛に、躾けられる。思うがままに、躾けられる。
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