殺すように、愛して。
 首の圧迫感が多少軽くなると同時に、目の覚めるような量の酸素がヒューヒューと喉を通り過ぎて肺に送られたが、首輪をきつめに締められているために激しい息苦しさは簡単には落ち着かなかった。胸が焼けるような気持ちの悪い苦しさに思わず嘔吐きそうになれば、吐いていいよ、俺が手伝ってあげる、気持ちよくなろうね、と緩んでいる俺の唇を割って、躊躇も容赦も逡巡も猶予もなく口内に侵入する二本の長い指が、仰向けでの嘔吐を煽った。熱い舌を弄ばれる。喉の奥を穿たれる。胃液が込み上げてくる。は、あ、と力なく吐息を漏らし、顔を隠すことも背けることもうつ伏せになることもできないまま、俺は黛の眼下で、黛の視線を浴びながら、癖がついてしまったかのように簡単に嘔吐した。ぐらぐらと視界が揺れていた。気持ち悪かった。気持ち悪かったのに、気持ちよかった。狂っていた。

 戻した液体は重力に従って自分の肌を伝い、髪を伝い、落下していく。涙や涎も一緒に零れ落ち、吐いたのに未だ指を咥えさせられたままどろどろになっているであろう自分の汚い顔を見られていることに、我慢できず煽られるままに嘔吐いてしまった自分の恥ずかしい姿を見られていることに、脳を溶かされ狂うほどに俺は興奮してしまっていた。

 今日は一段と酷かった。苦痛も醜態も恥辱も陵辱も、俺を昂らせ正気を失わせる。思考を鈍らせる。黛に、嵌まっていく。黛に、堕ちていく。意識が遠のくほどめちゃくちゃにキスをしてほしい。黛のものではない残滓を消して、黛のものだけを残すほどめちゃくちゃに抱いてほしい。発情期じゃないのに、アルファが、黛が、欲しくて、欲しくて欲しくて、欲しくてたまらない。もう、どうでもいいから、全部忘れるほど、黛のこと以外考えられなくなるほど、満たして。壊して。堕として。抱いて。黛。まゆずみ。
< 161 / 301 >

この作品をシェア

pagetop