殺すように、愛して。
 息が苦しい。胸が苦しい。苦手な両親のことを考えたのに、発情による性欲は全く萎えず、寧ろ、両親を拷問したという黛に興奮し、期待し、先程よりも症状が酷くなっているような気さえした。両親のことを考える。それはほぼ焼け石に水だった。狂う思考が、黛に囚われる。黛に占拠される。黛黛黛。黛。俺を、楽にさせて。他の誰でもない黛に、触ってほしい。黛。黛。黛。俺を、乱暴なまでに、愛して。愛してほしい。黛。黛。俺を、見て。見て。見て。はぁ、はぁ。苦しい。苦しい。苦しい。黛。

 首を絞められるあの気持ち悪い感覚が、不意に全身を駆け抜ける。苦しいのに、辛いのに、痛みすら感じるのに、黛に首を圧迫されるとなぜか陶酔してしまう俺は、死ぬ間際のあの感覚を味わいたくて、それで気を紛らわせようとして。首輪の上から気管を絞めた。手加減をしない黛に倣うように、強く、きつく、絞めようとしても、すんでのところで自制が働いてしまい、ただ汚く嘔吐きそうになるだけで気持ちよさなんて感じられなかった。

 自発的では無意識にストップをかけてしまう。目の前が蕩けて堕ちていくようなあの感覚は、絞められる、という受身でなければ味わえない高揚感なのかもしれない。中途半端に手を緩めない黛だからこそ、より一層、殺されるかもしれないことに興奮してしまうのだ。完全に歪んでいた。歪み切っていた。

 両手で首輪を押さえたまま、口を半開きにして胸を上下させる。頭も体も沸騰していた。はぁ、はぁ、と涎を垂らしそうになりながら、全く鎮まってくれない発情をどうにか乗り越えようと奮闘するも、思考は黛を求めてばかりで。下半身の興奮度も高まる一方だった。
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