殺すように、愛して。
 ひたひたと黛に溶け込みそうになるその途中で、水音を響かせながら唾液を引いて離れてしまった舌と、その後を追うように抜かれてしまった指。口内を満たしていた圧迫感がなくなり、気が狂れそうなほどの名残惜しさを感じながらも、漠然とした意識の中、俺は唇を舐めて唇を引き結んで、黛の唾液の残滓をごくりと飲み込んだ。体に染み渡っていく黛の体液に、あ、は、と喜悦する。輪郭がぼやけてはっきりとしない視界に映る妖艶な黛は、俺の涎でてらてらと艶かしく滑っている指を、俺から放たれた欲のついた手を、愛おしそうに、はたまた挑発するように、真っ赤な舌で舐めていた。間接的に自分を味わわれていることに、まゆずみ、まゆずみ、と惚けて心酔していく。体の内側は、随分と前から疼痛していた。

「おいしいね、瀬那。瀬那から出るものは全部おいしい。もっとおかしくなっていいから、馬鹿になっていいから、一緒に楽しもうね。可愛いね、おいしいね、瀬那」

 黛の唾液を飲んだ俺の心理を代弁するように、おいしいね、と意見を押し付けながら、楽しもうね、という言葉を、舐めたばかりの湿った手を伸ばして俺の首を絞めることで実現させる。見開かれた瞳孔が、黛が興奮していることを体現しているかのようで。首絞めは、黛の好むプレイのようなものだった。そして、快楽へと繋がる生き地獄は、俺の中のオメガの本能が求める暴力だった。
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