殺すように、愛して。
 喉を押さえ、喉を絞め、喉を突く。項は熱く痛み、喉は死を切望していた。死にたい。死にたい。死んでしまいたい。露呈する癖。自覚せざるを得ない癖。死にたくて、死にたくて、死んでしまいたくなるから、番を、早く、解消してほしい。オメガからは無理でも、アルファからなら可能であることは知識として持っていた。番のアルファが先に死ねば、必然的に解消されることも。そう、死んでくれれば。言葉で俺を解放してくれないのなら。酷だが、それを、望むしかない。物理的に消えてくれれば、解消、できるのだから。死んで。死んでくれたら。いいのに。死んで、くれたら。俺は。俺は。

 不意に、う、ぐ、と自分の口から漏れた呻き声が、血迷った俺の思考に修正を入れた。ハッとなる。俺は今、何を、何を望んだのか。自分が死ぬことよりも、強く、強く、誰が死ぬことを望んだのか。自分ではない他人が死ぬことを望んでしまったのか。自分を番にしたアルファが死ぬことを。望んでしまったのか。そうだ。そうだ。望んで。望んでしまったのだ。俺は。あの人が死ぬことを、望んでしまったのだ。それに気づいて、気づくと、自分の心の奥に潜む悪意が最低なものであることを嫌でも思い知らされた。俺は、最低だ。

 嘔吐いて、噎せて、呼吸が荒くなる。自他の死を望むあまり、重く、楽にならない身体が落ち込んでいき、下がっていた視線が更に下がると、視界の端に、処方された抑制剤の入った袋が映り込んだ。思わず手を、指の先まで重く感じる手を、伸ばす。それはフェロモンを抑えるもので、番をどうこうできるものではない。そんなことなど百も承知なのに、ぐらぐらと揺れている俺は、薬を飲んで、薬に縋りつこうとしていた。
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