殺すように、愛して。
 いざとなったら、雪野が死んでくれれば、と思ってしまったが、本当に死ぬことを望んでいるわけじゃない。望んでいない。だから、勘のいい黛に悟られる前に雪野との関係を切らなければ、もう、壊れてしまう。黛は、邪魔してきた奴は殺すと言った。殺すと言ったのだ。はっきりと。さも当然のように。簡単に。そう、簡単に。簡単に言うほど、言ってしまえるほど、平然と人を殺してしまえるのだ。実際に、黛は、人を殺せる目をしている。何度も人を、俺を、殺しかけたのが瞭然とした証拠だ。あの目は、人を、壊す。殺す。

 尊い命を淡々と奪えそうな黛は、俺を、番ってしまった俺を、許してはくれないだろう。無理やり番にさせられたと話してもだ。運命に一直線な雪野と同様に、普通とはどこか違う黛の機嫌も損ねてはならない。自分を、雪野を、守るためにも。早く番を解消しなければ、させなければ、人が死ぬ。雪野が死ぬ。黛が、手を汚す。そんな、悪くて暗い未来しか思いつかなくなってしまったがために、運命と運命でピンと張っている、アルファとオメガで繋がったその糸は、何が何でも断ち切らなければならないという焦燥に駆られた。死にたい。死にたい。自分はそればかりなのに、自分のせいで他人が死ぬのは堪えられなかった。

 吐き気はまだあるものの、どうせ何も出ないだろう。人間らしく活動する気力は湧かなくても、しなければならないことがあるのなら、草臥れた体に鞭を打ち遂行する必要がある。俺は番を認めたくない。認められない。受け入れたくない。受け入れられない。俺の。俺の番は。俺の、番は。
< 206 / 301 >

この作品をシェア

pagetop