殺すように、愛して。
汚れた口元を拭い、便座の蓋を閉めて水を流す。用を足す度に耳にしている日常と化した水音を背に、気怠い体を引きずるようにしてトイレから出て自室に入った俺は、今日ずっと机に置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。握り締めていたメモを見て、緊張で鳴り響く心臓の痛みを堪えながら数字を入力していく。この一本の電話を利用して、雪野に押しつけられた身勝手な契約を破棄するのだと意気込んだら、それと同時に、俺の知らないところで鳴りを潜め隠れている物事が明るみになるかもしれないと息を呑んだら、指先の震えと共に冷えた汗が背中を伝い、自分の呼吸音がやたらと近くなった。緊張を、霧散できない。吐きそうだ。でも、出るものはない。
出そうで出ないすっきりしない吐き気を覚えながらも、ゆっくりと息を吐いて画面を指で弾き、スマホを耳に当てる。程なくして鳴り出した無機質な電子音が鼓膜を揺らし、それに重なるように、囂しい心音もそこを刺激した。頭が痛い。耳が痛い。胸が痛い。首が痛い。
噛まれた項がじくじくと存在感を示し始め、メモを握っている手がそこを押さえ込んだ。電子音は続いている。雪野はまだ出ない。出てほしいような、出てほしくないような。いや、出てくれなければ、番の解消をお願いできない。一分一秒でも早く、雪野を切ってしまいたいから、その交渉をするためにも応答してくれなければ困るのだ。
雪野との関係を無駄に長引かせてはいけないという危機感を覚えていた。雪野が運命の番だとしても、それで雪野に惹かれてしまったとしても、ダメだ。ダメだ。漠然とした不安や恐怖に押し潰されそうで、ダメだ。身が持たない。雪野は、ダメだ。運命だから仕方がないと諦めたくはない。雪野は、ダメ。
出そうで出ないすっきりしない吐き気を覚えながらも、ゆっくりと息を吐いて画面を指で弾き、スマホを耳に当てる。程なくして鳴り出した無機質な電子音が鼓膜を揺らし、それに重なるように、囂しい心音もそこを刺激した。頭が痛い。耳が痛い。胸が痛い。首が痛い。
噛まれた項がじくじくと存在感を示し始め、メモを握っている手がそこを押さえ込んだ。電子音は続いている。雪野はまだ出ない。出てほしいような、出てほしくないような。いや、出てくれなければ、番の解消をお願いできない。一分一秒でも早く、雪野を切ってしまいたいから、その交渉をするためにも応答してくれなければ困るのだ。
雪野との関係を無駄に長引かせてはいけないという危機感を覚えていた。雪野が運命の番だとしても、それで雪野に惹かれてしまったとしても、ダメだ。ダメだ。漠然とした不安や恐怖に押し潰されそうで、ダメだ。身が持たない。雪野は、ダメだ。運命だから仕方がないと諦めたくはない。雪野は、ダメ。