殺すように、愛して。
 出るまで鳴らすつもりで雪野を待っていれば、何度目か分からない呼び出し音が途中でぷつりと切れた。緊張がピークに達する。繋がった。出た。無言。無音。ほんの少しの間を置いて、電話口から、はい、と声がする。当然だが、雪野だった。雪野の声だった。鼓膜に、響く。いざ電話を取られ、声を聞いたら、言いたいこと、聞きたいことが、バラバラになってぐしゃぐしゃにまとまってしまい、追いかけていた言葉を見失ってしまった。意地の悪い無言電話みたいになって、このままでは怪しまれて切られてしまうと思い、なんとか声を出そうと息を吸う。そして、あの、黛、雪野、さん、ですか、と途切れ途切れになりながらも、相手先の名前を確認した。その声で誰だか分かったのか、微かに鼻で笑うような吐息が耳をくすぐって。やっと、かけてきてくれたんだ、と雪野はイエスとは言わない肯定を示した。これで、鳴海くんの番号が分かった。そうさらりと付け加えられ、え、と目を見張り、なんで、名前、と思わず疑問が口から漏れる。表情は見えないのに、雪野の嗤った顔が浮かんでくるようだった。

『なんでって、鳴海くんが持ってた薬の袋に書いてあったし、それでなくとも、少し前から鳴海くんのことは知ってた』

「え……?」

『もしかして、まだピンときてない?』

「……あ、え」

『鳴海くん、大学生の男数人に声かけられたことあるだろ。その時彼奴らが撮ってくれた鳴海くんの画像の送り先ね、俺なんだよ』

 あの画像見た瞬間、俺の運命の番だって確信した。まさかこんな近くに運命が転がってたとは思わなかったけど。受け入れる準備をする間もなく、与えられることもなく、淡々と明かされた事実にスマホを落としそうになった。忘れたい記憶が、襲われた出来事が、脳裏に鮮明に蘇る。息が乱れ、雪野の言葉に何の反応も示せなかった。
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