殺すように、愛して。
 あの人たちは、首輪をつけていた俺を拉致して勝手に写真を撮った。友達に頼まれたからと。その流れで動画を回されてしまう際、誰かが雪野と名前を出していたような気がする。思い出した。そうだ。誰かが名前を口にしていた。その時に、俺は雪野という名前を聞いたのだ。だから、既視感を覚えるように、脳が記憶していたのだ。

 その雪野が、今、スマホの向こう側で息をしている、雪野。黛、雪野。俺の醜い画像を目にした瞬間、運命そのものを探していた雪野の目的が、運命の番である俺に変わってしまったのだろうか。いや、変わってしまったのだ。今しがた、俺の画像を見て確信したと言ったのだから。雪野は、俺を、探して、探し出して、見つけて、見つけ出して、捕まえて、噛んで、項を、噛んで、番にした。息が、苦しい。

『画像に映っていた鳴海くんの着ていた制服が、自分が過去に着ていたものと同じだったから、鳴海くんは俺の後輩だってすぐに分かった。弟もそこに通ってるから鳴海くんのこといろいろ聞き出したかったけど、彼奴完全無視で話にならない。そもそも話通じないんだよ、彼奴。全くもって使えない、舐め腐った態度の弟にイライラしたけど、制服のおかげで捜索範囲自体はかなり狭められたから、鳴海くんには感謝はしてるよ』

 何も発さない俺を煽るように、焦らすように、更に取り乱させるように、次から次へと流暢に言葉を重ねてみせる雪野。その彼の、愚痴込みの台詞の中に出てきた、弟、という単語を、知らされる事柄に頭がついていかず混乱していても、勝手に音が入ってくる耳はしっかりと拾っていた。動悸がする。
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