殺すように、愛して。
 クラスメートの声だった。朝、俺の隣の席で話していた男子生徒三人の声。彼らの言うように、俺には分からないオメガの匂いが充満しているのであれば、出ようと催促する彼の言葉に素直に従って、早く出て行ってほしかった。匂いに充てられておかしくなるなんてこと、あってはならない。彼らの名誉のためにも。自分のためにも。

 俺は誰も誘ってない。匂いを放ちたくて放ってるわけじゃない。発情期だから、オメガだから、こんなことになってるだけ。俺の意思じゃない。違う。違うから、早く出て行って。お願いだから。

 すぐ近くに、ベータだと話していた彼らではあるが、自分よりも格上の雄がいる。それだけで、本能的に求めてしまいそうになった。芽生える欲望に、体が震える。

 何これ、いやだ。自分が先に、おかしくなる。早く、早く出て行って。どっか行って。行って。早く、行って。出て行って。早く行け。

 乱暴な思考回路になりながら唇を噛んで、必死に堪える。一度自慰をして達したはずなのに、体は全然満足できていなかった。

「……なぁ、誰がオメガなのか、知りたくない?」

 ここからいなくなってほしいのに、俺の願望とは真逆の言葉が耳から脳に伝わり、一瞬だけ息が止まった。

 誰がオメガなのか知りたくない?

 だれがおめがなのかしりたくない?

 ダレガオメガナノカシリタクナイ?

 彼に何を言われているのか分からない。嘘だ。分からないわけがない。彼が何をしようとしているのか分からない。嘘だ。分からないわけがない。分かるから、分かるから。瞬時に理解したから、焦燥感や恐怖心に打ちのめされ、混乱してしまっているのだ。
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