殺すように、愛して。
「……彼、とは、同じ、クラスです」

『へぇ。そう。なんか、そこにも運命感じるな』

 俺の母校の後輩で、俺の弟と同級生で同じクラス。やっぱり俺と鳴海くんは運命の番だ。オメガらしい綺麗な項を噛ませてもらってから、俺の気分結構よくなってるんだよ。饒舌に話す雪野の声色は、なんとなく明るく軽く弾んでいるように感じた。噛んで番になったから。噛んで番ができたから。雪野にとって、それは待ち望んでいたことだから。ようやく掴み取ったことだから。でも、俺はそうじゃない。雪野と番になりたかったわけじゃない。なりたくなかった。なりたくなかったから、だから、だからこそ、より一層、彼との温度差を感じてしまうのかもしれない。俺の気分は、雪野の上がるテンションに反比例するように、みるみるうちに下がっていっている。俺は雪野と番になんかなりたくなかった。運命なんて、そんなの、知らない。

 噛まれた感触が未だに残っている項が痛い。そこに触れる手が汗ばむ。スマホを持つ手に力が入る。震えを押さえるように息を止め、吐いても、呼吸は落ち着かず、心臓はうるさく鳴っている。当然だ。これから俺は、雪野の気分が著しく下がってしまうであろうことを言おうとしているのだから。言わないわけにいかない。言わないといけない。この関係が黛にバレてしまったら、黛は躊躇なく雪野を殺すだろう。兄であっても、きっと、関係ない。兄だったら殺さない、なんて、黛が特別扱いするはずがない。彼はそういう人だ。兄弟だろうがなんだろうが、殺す。俺に興醒めしない限り。殺す。冗談みたいなことを彼は本気で言って、周りの意表を突くような、理解しがたい言動を平然として見せるのだ。
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