殺すように、愛して。

　解消、してください、と弱々しくも同じ台詞を口にし、雪野の言い分を完全無視してしつこく食い下がる俺の言葉に被せるように、何言われてもしないから、と若干棘のある声で雪野はピシャリと言い放った。そうやって俺の要望を途中で遮断した。沈黙。喪失。畏怖。相手の機嫌はどんどん悪くなっていく。俺の精神もどんどん擦り減っていく。心臓が痛かった。頭が痛かった。首が痛かった。余裕もなく、解消してくださいとしか言えない自分が、情けなかった。

　解消してください。そのつもりはないって言ってるだろ。解消、してください。嫌だ。鳴海くん見た目も綺麗だから余計手放したくない。番は解消しない。番、解消、して。しないって言ってるだろ。そろそろしつこい。お願いします。俺を切って、ください。切って。お願いします。はぁ、もう、いい加減にしてくんない？　さっさと受け入れろよ。受け入れて。俺と鳴海くんは運命の番。これが現実。

　溜息。舌打ち。苛立ち。諭し。懇願。怯え。動悸。亀裂。埒が明かなかった。お互いにそう思っていた。平行線なままで、話が進まない。変わらない。纏まらない。どちらも譲る気がないから、決着がつかない。雪野を救えない。自分を救えない。黛を止められない。俺は何もできていない。こんな奴を、こんな奴に、と興醒めしてくれたらいいのに。俺に対する関心をなくしてくれたらいいのに。なくせられたらいいのに。番を解消してほしい。雪野に望むのはそれだけだ。

『手探りで求めて、ようやく掴んだ運命は、絶対逃がさない。自棄になって俺から逃げたって、苦しむのは鳴海くんだから。今はどうってことなくても、発情期が来れば嫌ってほど実感する。その時、鳴海くんを助けられるのは俺だけだよ』