殺すように、愛して。
 じゃあ、また、何かあれば、いつでも連絡して。番の解消を求めること以外で。俺は鳴海くんを番から解放するつもりはないから。そこはちゃんと弁えておいて。無理やり話を締め括られ、有無を言わさずプツリと通話を切られる。程なくして響く半濁音。耳に障る無機質な電子音。いつまでも、何かで叩かれているかのようにドンドンと鳴っている心臓。思い出したかように迫り上がってくる胃液。眠っていた死にたいという感情が目を覚ましたことで、冷たく暗く重い影がさし始める視界。不穏の色。絶望の色。死んでしまった方が、いいのかもしれない。死が、導きを再開する。死に、囚われる。

 一方的に電波を遮断した雪野を呼び止める間はなかった。呼び止められなかった。俺が意見を変えないのと同じように、雪野もそうだから。諍いをしても悪化するだけで、説得することはできない。雪野に仕切られ先に通話を切られてしまった時点で、俺は彼に負けている。もう、気力がない。気力が湧かない。啖呵を切ることなどできない。俺の番は、雪野のまま。項が酷く痛む。

 今後が不安で、不安で、不安で仕方がなかった。不安でしかなかった。一気に弱ったところを死が手招いて、誘う。死にたい。死にたい。俺が死ねば、雪野は殺されずに済むだろうか。変化に気づいた黛が、積極的に手を汚すこともないだろうか。きっと、そうだ、そうに違いない。癖になってしまうほど何度も死のうと思ったのだから、その時に、うじうじくよくよせずに潔く死んでおけばよかったのだ。死に切っていればよかったのだ。俺がいるから、周りが壊れる。黛も、雪野も、それから、両親も。ああ、ああ、まだ、まだ、噛まれた感覚が残っている項が痛い。
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