殺すように、愛して。
待ち望んだ死を迎えようと開けていた瞼を下ろそうとした時、ふっと首の圧迫感が消え失せ一気に現実に引き戻された。目を見開き横になって咳き込んでしまう俺を見下ろす黛の手が、指先が、俺の頬をなぞる。撫でる。その僅かな接触にビクッと肩を揺らして警戒してしまえば、彼の手はすんなりと離れた。心臓が痛む。首が痛む。悪夢ではないはずなのに、悪夢から醒めたような感覚にますます混乱し、まゆずみ、と訳も分からずに名前を呼んだが、彼がもう一度触れてくることはなかった。静かにナースコールを、ベッドの傍らに設置されていたそれを押し、喘ぐ俺をほぼ無表情で凝視して。そして、接触しない程度に顔を近づけ、耳元で囁いた。
「俺が、元通りにするからね、瀬那」
そう言い残して、彼は看護師の到着を待つことなく病室を後にした。その後ろ姿を、俺は苦しみ喘ぎながら見つめることしかできなかった。声をかけられない。呼び止められない。彼の放った言葉の意味を理解したのに。俺は何もできない。何もできていない。何もかも半端で、何も成し遂げられていない。
黛の纏っている空気感はいつもと同じように見えて、微妙に違っているように見えた。黛に触れられた俺自身も、いつもと違っていた。キスに、興奮しなかった。首絞めに、高揚しなかった。触れた指先に、怯えた。警戒した。それが普通のリアクションなのかもしれないが、今までがそうではなかったから、俺と黛の間では、首絞めなどはいつしかプレイの一つのようなものと化していたから、ふわふわしていない、この怠く重たい感覚が、やはり違和感だった。苦しくて、痛くて、気持ち悪い。モヤモヤ、ズキズキ、ムカムカして、死ねなかった事実に、変わらない番の相手に、黛を引き止められなかったことに、心身が堪えきれなくなる。ついてしまった吐き癖のせいだろうか。俺は堪え性もなくすぐに嘔吐してしまった。
「俺が、元通りにするからね、瀬那」
そう言い残して、彼は看護師の到着を待つことなく病室を後にした。その後ろ姿を、俺は苦しみ喘ぎながら見つめることしかできなかった。声をかけられない。呼び止められない。彼の放った言葉の意味を理解したのに。俺は何もできない。何もできていない。何もかも半端で、何も成し遂げられていない。
黛の纏っている空気感はいつもと同じように見えて、微妙に違っているように見えた。黛に触れられた俺自身も、いつもと違っていた。キスに、興奮しなかった。首絞めに、高揚しなかった。触れた指先に、怯えた。警戒した。それが普通のリアクションなのかもしれないが、今までがそうではなかったから、俺と黛の間では、首絞めなどはいつしかプレイの一つのようなものと化していたから、ふわふわしていない、この怠く重たい感覚が、やはり違和感だった。苦しくて、痛くて、気持ち悪い。モヤモヤ、ズキズキ、ムカムカして、死ねなかった事実に、変わらない番の相手に、黛を引き止められなかったことに、心身が堪えきれなくなる。ついてしまった吐き癖のせいだろうか。俺は堪え性もなくすぐに嘔吐してしまった。