殺すように、愛して。
 由良に連れられ自室に戻った俺は、微かに響く呼び出し音と淡い光を発しているスマホに目を見開いた。まだ、鳴っている。切れていない。相手も切っていない。由良が電気を点け、小さな音を発しながら床に転がっているそれを見て、電話かけてたの、と俺を見下げ、小首を傾げる。それに俺は、ああ、うん、切り忘れ、てた、と片言になりながら答え、由良の支えがなくてもなんとか歩けそうだと思い、自分の足でしっかりと床を踏んだ。ありがとう、由良。感謝の言葉をついでのように添えて。

 スマホの近くまで歩みを進め、蹲るように膝を折って画面を見ると、呼び出ししてから既に十分以上が経過していた。もう出るわけがないと人差し指で通話を切る。慌てて吐きに行ったがために切り忘れていた俺に問題はあっただろうが、雪野のスマホを持っていると考えられる黛も、拒否するでもなく出てすぐ切るでもなく鳴りっぱなしのまま放置するなんて。それとも本当に気づいていないのだろうか。スマホだけどこかに取り残されているのなら、そのままであっても頷けるのだ。

 俺の知らないところで何が起こっているのか、状況が掴めず不安だけが残って、煽られる。一体黛はどこで何をしているのだろう。俺の懸念を他所に、平然と眠っているのだろうか。雪野を殺してすぐ、何事もなかったように横になっているのだろうか。

「こんな時間に電話するって、トイレで戻す前に、何があった……、のか、聞いても、いい……?」
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