殺すように、愛して。
 番の解消ができたかもしれないことで、黛に項を噛んでもらうという俺の内なる欲求がより一層現実的なものとなる。雪野の死が、俺と黛を近づけてくれるようで。最低最悪な頭で、そんなようなことを、考えた。期待した。早く、会いたい。黛に、会いたい。項を、噛んでほしい。傷だらけでも、噛んでほしい。

「……番の有無、項の匂い嗅いだら、多分、分かる」

 沈黙を破り、勇気を出して放ったような由良の言葉に、絞り出したような声に、俺は、え、と彼を振り返った。自信のなさそうな、でも、真剣に考えているような、そんな表情で俺に目を向ける由良。アルファがオメガのフェロモンを嗅ぎ取れることは知っている。よって、アルファの前では、オメガはオメガであることを誤魔化せない。番のことまで匂いで分かるのか、までは知識としてなかったが、アルファの由良がそう言うのなら、分かるのかもしれない。

「無理にとは言わない。でも、どうしても気になるなら、俺の、というか、アルファの嗅覚、頼って」

 何か、自分にできることをしたい、してあげたい、という由良の厚意を蔑ろにはしたくなくて、俺は黙ってこくりと首肯した。憶測だらけのため、確定できるような何かがほしい。由良を頼るというよりも、利用しているような気がしてならなかったが、番がどうなったのか確認する術は、今この場にはそれしかないのだ。由良の、アルファの嗅覚に、全てが託される。
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