殺すように、愛して。
 あとは、そう、二回目の発情期を迎えた時。酷い欲求に苦しみながら黛を求めてしまった俺の前に、本当に黛が現れたのだ。なんとなく、一回目がいつだったのか知っているから、もうそろそろなんじゃないかと、なんとなく予想して、だから、あれは、勘にも似た感覚的な問題だとも考えられるが、嗅覚が鋭いという話になってしまった以上、どうしてもそれだけではないように思えてきてしまう。どこかの時点で、微かな発情フェロモンを嗅ぎ取っていたのではないか。そしてそれが、俺から放出されるフェロモンであることも。黛は感知していたのではないか。だから、姿を見せた。平気で、平然と、普通に、当然のように、不法侵入をするくらいには、自信があった。とんでもない人だった。そんなの、今更だった。

 俺が自棄を起こして自傷し、病院で目覚めた時も、俺は何も言っていないのに、そこにいた黛は全て悟ったように元通りにすると言った。雪野本人から聞かされたのかとも思ったが、雪野は自分の弟を良く思っていない様子だった。そんな相手にわざわざ話すなんてことがあるだろうか。マウント、を、とって、挑発するということも考えられたが、実際はどうか分からない。全部想像でしかない。が、黛は噛んだのが雪野であることに気づき、確信し、そして、鉄槌を下した。その事実だけは、俺の項が証明している。

 俺が入院していたこと自体、番の存在に気づき、相手まで分かったこと自体、誰かに聞いたり教えてもらったりすることなく、持ち前の嗅覚や鋭い勘で正解を導き出したのかもしれないと考えたら、末恐ろしかった。黛に誤魔化しは利かないと思い知らされる。悪いことをしたら、すぐに見破られる。見破られて、罰を与えられる。鞭で叩かれる。それを想像して、妄想して、なぜか、体が、熱くなった。
< 265 / 301 >

この作品をシェア

pagetop