殺すように、愛して。
 思考の渦に巻き込まれ、整理するように考え込むうちに、その渦に足を取られてしまった俺は、悪い方へ、悪い方へ、黛に乱暴に扱われたいという秘めた欲求に飲み込まれ、彼の嗅覚を逆手に取り、彼の目につかないところで、彼の機嫌を損ねるようなことを、したくなってしまった。黛に、叩かれたい。黛に、殴られたい。黛に、蹴られたい。黛に、踏まれたい。黛に、嬲られたい。黛に、見られたい。黛に、触られたい。黛に、噛まれたい。匂いで全て感知できるのなら、黛が俺を放置している間、俺が何を求め、何をしていたのか、全部知ってほしい。知った上で、吐かせてほしい。俺は黛のオメガであることを、黛は俺のアルファであることを、この身体に刻みつけてほしい。黛としたいと思っているプレイの下準備のために、俺が今、できることは。

「由良……、ゆら……」

 唇を動かし、由良を見て。黛のことを考えることで徐々に働かなくなっていく頭をそのままに、そっと手を伸ばす。由良と間違いを起こせば、それを嗅ぎ取った黛を煽れると思った。煽って、煽れば、侮辱や恥辱で俺を満たしてくれると思った。緩んだ凹凸を、また、かちりと、嵌めてくれると思った。黛。黛。黛。黛を思うと、ダメだ、俺は、ダメになる。

 予期しなかったことなのだろう、え、と由良は頭にクエスチョンマークを浮かべているように見えたものの、俺の顔を見て、行動を見て、瞬時に表情を引き攣らせ、困惑する。でも、ごくりと喉仏を上下させたのを、俺は見逃さなかった。由良は、今、俺を、兄として見ているのか。それとも、ただのオメガとして見ているのか。どっちにも取れる顔だったが、別にどちらでもよかった。会った時に、香った匂いで、黛を煽れるのなら。どちらでも。
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