殺すように、愛して。
 まゆずみ、まゆずみ、とこれといった会話はなくなってしまったのに、電話を切ってほしくなくて縋りつく。黛のことだ。名前を連呼する俺を無慈悲に遮断することだってできるだろうに、彼はなぜかそうしなかった。それが俺を更に落ちぶれさせた。聞かれている。声を、聞かれている。息遣いを、聞かれている。そう思ってしまったら、みるみるうちに全身が熱くなり、言葉責めも何もされていないにも関わらず、勝手に興奮してしまった。無言の放置。繋がっているのに、放置されている。まゆずみ。まゆずみ。もう俺は、黛のことしか考えられない。まゆずみ。

 足をモジモジさせ、荒い息を吐き、ん、と唇を引き結んで、ごくりと唾を呑む。まゆずみ。まゆずみ。まゆずみ。黛は今、こちらに向かって来てくれているだろうか。何の音もしないが、来てくれているだろうか。まゆずみ。まゆずみ。早く俺に触ってほしい。黛のしたいことをしてほしい。黛になら何をされても、快楽に変わる。俺のされたいことは、黛のしたいこと。何度もかけた電話に出た時に、考えといて、と彼はそう言った。それが俺の答えだった。黛がしたいと思うことをしてほしい。暴力も暴言も、黛からなら、全部、愛に変わる。変えられる。

 迫られて、言い寄られて、嫌だと思っても、本当に、心の底から嫌だと思ったことはなかった。初めて触られて、口に指を入れられたり、首を絞められたりした時でさえも。気持ち悪くても、その中にある気持ちよさを無意識に手繰り寄せていた。気持ち悪いことも、気持ちよかった。
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