殺すように、愛して。
「まゆず……」

「初めてだよね、発情期。今日、それを迎えそうだね」

 囁かれて、刹那、反射的に手が出た。先に動いた。思考よりも先に、本能が黛の肩を押した。血の気が引いた。動悸が激しくなる。胸が包帯に締め付けられる。黛を押した手が震える。

 黛、今、なんて。

 言われた言葉が理解できない。いや、理解はできるが、理解が追いつかない。俺は今、何を言われたのか。分かっているのに、分からない。顔が引き攣る。唇が震える。何かが崩れる前兆のような、そんな、耳障りな、虫の知らせのような、嫌な、音が、鼓膜に、脳に、直接響いた。

 黛は、全てを知っているような目で、俺を見下ろしている。決して揶揄っている声色ではない。彼は真面目に話しているのだ。俺が、オメガ、の、前提で。俺が、オメガ、だと、確信して。

 あ、あ、と口をパクパク、目をキョロキョロ。動揺を隠せない。誤魔化せない。違うと言えない。嘘が吐けない。アルファの前では、オメガは仮面を被れない。黛は、誰もが認めるアルファだ。

 黛の、ずっと前から俺の第二の性を知っていて、一切疑っていなかったことが窺える言葉に、築き上げてきたものが一瞬にして崩れ落ちていくのを目の当たりにした。

 目立つ黛。生徒のトップに立つ会長を務める黛。容姿も能力も優れている黛。彼に憧れる人の視線が自分に刺さっているような気がして居た堪れなくなった。それ以前に、誰にもバレていないと思っていたことが目の前のアルファにいつの間にか知られていたことに、気づかれていたことに気づけなかったことに、取り乱してしまいそうになる。
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