殺すように、愛して。
 それを知っているから、容易に想像できるから、俺は由良と、あの人たちの前では会話をしようとはしなかった。直接伝えたわけではないが、由良もきっと、それを感じ取ってくれているのだろう、両親を前に、話しかけてくることはなかった。

 両親の前では、俺と由良は、不仲でなければならない。それが両親の思い描くストーリーで、願望で、俺が、社会的にも地位の低い欠陥品のオメガである以上、優秀な人材のアルファの由良との関係は、アルファに拘泥するあの人たちにとっては、そうでなければならない事象なのだ。そこに俺の意思も由良の意思も存在しない。

 由良が俺を庇うような言動をしても、俺が由良にそうさせている、と自分たちの思い描く理想に近づけるために、到底理解できない空想を繰り広げるのではないか。由良も俺に嫌悪感を抱いていなければ、あの人たちの物語は成立しないのだ。

 由良のため、という一見聞こえはいいが実際には傲慢な言葉で由良を救った気になって、お前のせい、という全ての責任を押し付けるのには都合がよくて最適な言葉で俺を地べたに押さえつけて、由良のために殺している、お前のせいでおかしくなっている、と自分たちの虐待行為を、由良のためだと言って、お前のせいだと言って、正当化。俺と由良の親は、誰かのために誰かのせいにする、そういう利己主義な人たちだった。
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