殺すように、愛して。
 俺がオメガでなければ、アルファの血が濃ければ、殺伐とした雰囲気もない温かな家庭を築けていたのだろうかと、もう今となっては叶わない思いを、もしもの話を、遠のく自宅を振り返って思案する。あの家に入っている亀裂に気づいている人はどれくらいいるのだろうと、今度は重たい溜息を吐きながら現実から目を背けるようにすぐに前を向き、不満を並べ立てたところで解決できる問題ではないと諦め、考えることをやめた。両親から、一時的にではあるが解放されている時くらい、あの二人のことは忘れていたいし、自分がオメガであることも考えないようにしたかった。でも、そう思って意識している時点で、既に無意味な行動で。両親とオメガが、頭にこびりついて離れない。

 カバンを抱え、心に差す影を振り払うように気を取り直し、学校に行く前に空腹を適当に満たそうとコンビニを目指した。いつしかそこにある商品が、俺の朝食となっていて。俺を見ることすら嫌がる両親がいる中で、ゆっくり食べることなんてできなかった。居心地の悪さに、不安や恐怖に、食が喉を通らなくなる。落ち着いて食事もできないくらいなら、最初から避けて一人で食べられる場所で、無理せずに胃を膨らます方が賢明だった。

 すっかり行きつけとなったコンビニへ向かう道中、国道を飛ばす車や早足で歩く人、颯爽と自転車を漕ぐ人とすれ違ったり逆に追い抜かれたりして。周りはどことなく慌ただしく動いているようにも見える朝だが、起床したらすぐに、行ってきますも行ってらっしゃいもないまま幽霊のように出て行く俺には、移動時間を短縮しようとせかせかと急ぐ理由もなければその必要性もなかった。登校時間までかなりの余裕があるから、焦らなくていい。慌てなくていい。それでも、胸に蟠る不安はつきまとっていた。心の平安を保てない。
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