殺すように、愛して。
 俺がオメガであることは、俺がいない間に、知らないうちに、同級生や後輩問わず多くの生徒に知れ渡っているんじゃないか。発情期で一週間程度学校を休んだことと、休む前日、黛の手によって気絶させられ、由良に背負われていたことで、第二の性に敏感になっている今を生きる人たちは察してしまうんじゃないか。

 気絶している間の記憶がないせいで、一体どれくらいの人に、もしかして、と思われてしまったか想像がつかなかった。黛や由良はむやみやたらに暴露しないだろうが、俺を襲ったあの三人は分からない。声を大にして、というよりかは、こそこそと内緒話をするように広めてしまっているかもしれない。

 弟の由良や、発情期になる前から知っていたとでも言わんばかりの黛を除いて、少なくともあのベータの三人には俺がオメガであることがバレている。その可変できない事実から、これまで積み上げてきたものが、警戒していたはずなのに対応できなかった発情期によって、全部崩れ落ちてしまったことは認めざるを得なかった。

 自分の近辺にオメガがいることを知った人たちは、そのオメガに対してどんな目を向けてくるのか。両親から散々詰られていることもあってか、みんながみんなオメガの人間に不満を持っているとは限らないのに、植え付けられた恐怖心をどうしても拭えなかった。せめて俺と同じ性で悩む人が近くにいれば、この重たい気持ちも少しは楽になったかもしれないが、ただでさえ割合の低い性だ。そう簡単にオメガ同士が出会えるはずもなかった。
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