殺すように、愛して。
 オメガだと周知されたら、両親みたいにオメガをよく思わない人たちの軽蔑した目に脅かされてしまうかもしれない。オメガというだけで、きっと下に見られてしまう。オメガのくせに。オメガなのに。オメガだから。何をしても、オメガが前につくのだ。オメガだから、俺が。

 制服の上から自身の手首を握る。間に布を挟んでいても分かるほど、脈が速くなっていた。それこそ、包帯の下に隠れている傷が痛むほどに。

「あ、ま、まゆずみ、おね、お願い、だれ、誰にも、い、いわ、言わな、いで……」

 俺がオメガだと。初めての発情期を迎えそうだと。体質をより一層意識させるような言葉を、言わないで。誰にも、言わないで。広めないで。バラさないで。

 詰まりながら声を絞り出し、黛を見上げて。目が、合って。すぐ、逸らす。彼は何も言わない。声量がなさすぎて、黛の耳に届かなかったのかもしれない。もしそうだとしても、もう一度声を張って伝えられるほどの余裕はなかった。

 体が、震える。発情期と言われ、それを意識したら、症状が悪化しているような錯覚に陥った。包帯の下でドクドクと激しく蠢く心臓に、嫌な汗が湧き出てしまう。

 発情期の、前兆。嘘だ。違う。発情期じゃない。違う。これは、発情期なんかじゃない。違う。違う。やめて。違うから。発情期、なんて、嫌だ。やめて。

 番のいないオメガが発情するとどうなるのか、実際に見たことはなくても、まだ経験はなくても、知っている。大量の誘発フェロモンを出し、無自覚にアルファを、雄を、引き寄せるのだ。
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