殺すように、愛して。
 知らぬ間に俯けていた顔をなんとはなしに上げると、視線の先で目的地としていたコンビニを捉えて。あれこれと懊悩しながらも、自然と、それこそ吸い込まれるように、俺は出入り口へと足を運んでいた。見通しのいい広い駐車場。車は二台ほどしか停まっていなかった。

 誰も俺のことなんか見ていないだろうに、やけに警戒心が膨れ上がってしまっている俺は、馬鹿みたいに周りの目を気にしながら店内へと足を踏み入れた。いらっしゃいませー、と毎度のことながら明るい声色で出迎えてくれる店員に変わった様子はなく、すっかり常連客となってしまったであろう俺を認識しても、顔色も目の色も態度も何も変化はなかった。それにひとまず安堵する。ビクビクと怯えて不安がって懸念するほど、大事にはなっていないのかもしれない。それならそれでいいし、実際そうあってほしい。

 レジの近くにコーナーとして設けられている菓子パンを二つほど選び、そのまま飲料コーナーに移動して。500mlの水を手に取った。店内には、これから仕事なのか、それとも今日は休日なのか、赤の他人の予定なんて分からないが、それぞれ駐車場に停められている車の持ち主であろう男性が二人いた。俺に気づいても、全く関わりのない人だ。目は動いても口は微動だにしなかった。
< 70 / 301 >

この作品をシェア

pagetop