殺すように、愛して。
いつしかじっくり味わいながら食べることもなくなり、ただ口に入れて噛み砕いて嚥下するのを機械的に続けて空腹を満たすだけの味気なくて質素な食事をするようになってしまった俺は、食べ終わって残った包装用の袋を小さく折りたたんでカバンに入れた。そのまま、その手で、ほぼ流れで、抑制剤を取り出そうとしたところで、駐車場にバックで停められていた車の鍵が開く音を耳が拾った。ハッとなり、咄嗟に手を退ける。僅かに触れていた抑制剤は。大丈夫。俺のカバンの中で眠ったまま。大丈夫。誰の目にも触れていない。大丈夫。大丈夫。大丈夫だったが、危ないところだった。見られたら怪しまれる。危ない。危ない。気が緩みすぎた。油断した。場所を変えなければ。ここで堂々と飲むわけにはいかない。もっと警戒心を。不用意に自らオメガだと呈示するような愚かな言動は慎まなければ。何らかの形で知ってしまった人にはもう誤魔化しは効かないだろうが、本当に何も知らない人には知らないままでいてほしかった。
ペットボトルをカバンに突っ込み、中身が見えないように、落ちないように、きっちりと閉めた上で、俺はそれを胸に抱いて歩みを進めた。カバンの下で、制服の下で、包帯の下で、薬を取り出す姿を目撃されそうになったことに若干狼狽して熱くなる心臓が大きく跳ねていた。
もう学校へ行こう。適当に朝食を済ませた後は、ずっとそうしてきたのだから。今ならまだ、登校してくる人もまばらなはず。今日に限らずいつだってラッシュ時にぶつかってしまうのは避けたいし、人が少ないうちにバレないようさっさと抑制剤を飲んでおいた方がいい。
ペットボトルをカバンに突っ込み、中身が見えないように、落ちないように、きっちりと閉めた上で、俺はそれを胸に抱いて歩みを進めた。カバンの下で、制服の下で、包帯の下で、薬を取り出す姿を目撃されそうになったことに若干狼狽して熱くなる心臓が大きく跳ねていた。
もう学校へ行こう。適当に朝食を済ませた後は、ずっとそうしてきたのだから。今ならまだ、登校してくる人もまばらなはず。今日に限らずいつだってラッシュ時にぶつかってしまうのは避けたいし、人が少ないうちにバレないようさっさと抑制剤を飲んでおいた方がいい。