愛があなたを見捨てたとしても
しかもこの人、わたしが踏まれた蛙と同等の声を上げたのに、無反応でずっと外を眺めている。

雨音で声が聞こえなかったのかもしれないけれど、まるで石像みたいだ。

雨の降りしきる外界に足を踏み出そうともしないし、だからといって店内で暖を取るわけでもない。

ただ斜め上を向いて、天から流れる水を眺めている。


「…」

後ろから、そっとその顔を覗いてみたけれど。

毎回同じ台詞でハンバーガーを注文する彼の表情は、暗くてあまり見えなかった。



こういう時、どうすればいいのだろう。

この店がそこらのコンビニやスーパーなら、完全に無視して歩き出すところだ。


でも、ここはわたしのバイト先。

ましてやこの人が突っ立っているのは店頭、自動ドアの真正面。

このままではお客さんが入りづらいし、店内にいるお客さんが出るに出れない状況にあるのはわたしの体験が証明済み。


だから、

「あの、」

意を決したわたしは、小さな声でそう呼び掛けたんだ。


すると、まるでその言葉を待っていたが如く、男性の首がゆっくりと回った。


「…」


亀のようにのそりとした動きからは考えつかない程の漆黒の瞳が、真っ直ぐに私を射貫く。

まるで“俺の邪魔をしたのはお前だな”とでも言われそうで、あわあわと目線を左右に動かした。
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