愛があなたを見捨てたとしても
雨音に掻き消されそうな程に小さな声に反応したのだから、もしかしたら先程のわたしの失態にも気づいたのではないだろうか。


「何ですか」


そして、薄く開いた口から紡がれるのは、いつも注文を承る時よりも若干低い声。

そこには一切の抑揚が含まれていなくて瞬発的に謝罪しそうになったけれど、ここで引き下がってはバイトとしての面目が立たない。


「えっと、」


どう話せば良いか分からなかったから、取りあえずこう切り出してみた。


「どうしてこんな所に立たれているんですか?誰か、待たれてるんですか?」

「いや、雨が酷いから。止むの待ってるだけ」


我ながらきちんとした敬語を使ったつもりが、何故かタメ口で返されてしまった。

まあ、所詮バイトという下っ端の人間にはそういう話し方にもなるだろう。


「そうですか…」


わたしに返答したことで満足したのか、ハンバーガー男は再び外の景色を見上げてしまった。

どうやら、ここから退く気は一切なさそうだ。

でも、何とかしなければ。


背後でベルの音が鳴り、母娘と思われるお客さんが自動ドアをくぐり抜けて外に出てきた。

私たちが邪魔だからか、母親の方に怪訝な顔で見られたけれど、ハンバーガー男は気にする素振りすら見せない。

軽く頭を下げたのはむしろわたしの方で、これではまるで私が悪者になっているみたいだ。
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