愛があなたを見捨てたとしても
「小さくてあれですけど、傘入って下さい。どうぞ」


これは、常連客に対する純粋な興味というより、自ら風邪を引きにいくような危なっかしい人を見過ごせないわたしの性格上の問題だ。


頭上から落ちてくる水が頭にかからないことに気付いたハンバーガー男が、驚いたように私の方を向いた。

やっぱり、その双眼は彼が身に付けているジャージよりも黒くて。


「…それ、相合傘」

「アイアイサー?」


ハンバーガー男が何かを口にした気がしたけれど、あいにく雨音がうるさくて良く聞こえない。

自分が恐ろしい聞き間違いをしているとは夢にも思わず、

「お客さんは、駅の方に向かわれますか?良ければそこまで送りますよ」

以外とノリの良い人なのかな、なんて思いながら、私たちはゆっくりと歩き始めた。



「…あの、ハンバーガーお好きなんですか?」


揃って駅の方に向かい、僅か数秒後。

早くも沈黙に耐えきれなくなったわたしは、空いた手でハンバーガー男の提げる袋を指さして尋ねてみた。

いきなり店員にこんな話をされて気まずいと思うけれど、こちらは沈黙が苦痛でたまらないのだ。


「あーいや、好きっていうか、安いから」


わたしの声はしっかりと相手にも届いていたみたいで、彼は真正面を見つめながらも答えてくれる。
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