愛があなたを見捨てたとしても
ハンバーガー男の歩く方へ黙って着いて行っていたわたしは、目と鼻の先にあった“新南山駅”と書かれた表示が遠ざかっていくのを見て、堪らずに声をかけた。

てっきり駅へ向かうものだと思っていたのに、この人は何食わぬ顔で駅を通り過ぎたから。


「俺の家、すぐ近くだから。こっからは自分で帰るわ」


ふっとこちらを見下ろしたハンバーガー男は、すっと目の前の道を指さしてまたもや傘から抜け出そうとする。


「いや、濡れちゃいますって!」


どうしてこの大雨の中、自ら雨に打たれようとするのだろう。

わたしの半身もかなり濡れていたけれど、そんな事は気にならなかった。


背伸びをしてハンバーガー男の頭上を傘で覆った時、自分のお腹が盛大に鳴るのを感じた。

多分ハンバーガー男には聞こえなかったと思うけれど、
…私の胃は、とっくのとうに限界を迎えていたんだ。



「…あの、」


わたしは、トントンと彼の肩を叩いた。

まだら模様のジャージは、まるで氷みたいに冷たかった。


「ん」

「今日、家に夕飯ありますか?」


いきなり何てことを聞くのか、と言いたげに、ハンバーガー男の眉が怪訝そうにひそめられる。


「…夕飯、これだけど。俺1人暮らしだし」


ほら、と彼が持ち上げたハンバーガー袋は、無惨なまでに雨に濡れてしまっていた。
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