愛があなたを見捨てたとしても
私たちはお客さんが来ないとすることがないから、フライヤーやセッターの人に比べれば比較的楽な立場なのだ。


ここで森山さんが暗に示しているのはもちろん、あの“ハンバーガー男”のこと。

ハンバーガー男という名前は、あのお客さんがいつもハンバーガーだけを頼むから、という理由で名付けられている。


「ハンバーガー、好きなのかな」

「どうだろう…。美味しいけど、あれだけじゃお腹いっぱいにはならないよね」


このお店のハンバーガーはわたしも食べたことがあるけれど、花形の海老カツバーガーやテリヤキバーガーと比較するとその差は歴然。

確かに美味しいけれど、お腹が脹れて十分満足、とまではいかないのだ。


「まあ、常連客がいるってだけマシだけどね」

「それはそうだよね」


森山さんの台詞は正論で、わたしも小声で相槌を打った。



「そういえばさ、常連客って私たちのこと認知してるのかな?」

「どうだろう。名札とか見て判断…するのも面倒だもんね」


何となく口をついだ疑問に、森山さんが首を傾げる。


「でも、わたしは常連客の接客の時、“いつもありがとうございます”って言うようにしてる」


横を向くと、わたしよりも少し背が高い彼女がマスク越しに笑っているのが見えた。
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