愛があなたを見捨てたとしても
「先輩が言ってたんだけど、何か一言添えると覚えて貰えるらしいよ。琴葉ちゃんもやってみれば?」


彼女がくいっと顎で示した先にいるのは、俯いたまま商品の出来上がりを待つハンバーガー男。


「いやー、わたしは…」


両手を振って謙遜しつつも、頭の中ではまるで別のことを考えていた。

もしもわたしがそう言えば、ハンバーガー男もわたしを認知してくれるのかな。


それは、店員と客という立場での、単純な興味心だった。



「番号札、202番でお待ちのお客さまー」


しばらくして出来上がったハンバーガーを袋詰めした私は、番号札を大声で読み上げた。

もちろん、この番号に反応するのは例のハンバーガー男。


「お待たせ致しました、ハンバーガーです」


本物か偽物かすら分からなくなった笑みと共に話しかければ、ぺこりと下がる頭。

やはり、ハンバーガー男がどんな顔をしているのかは分からない。


「お気を付けてお持ち帰り下さい。ありがとうございましたー」


ジャージの袖から覗く骨ばった手が袋を持ったのを確認して、マニュアル通りの台詞で送り出す。


結局、恥ずかしくてマニュアル以外の台詞を言うことは出来なかった。
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