愛があなたを見捨てたとしても
数日後。
「雨だねー、傘持ってきた?」
「一応。折り畳みだけど」
「シフト上がる直前に雨とか、気分萎えない?」
「物凄く」
シフト上がりまであと15分となったわたしは、レジ横で小さく伸びをしながら森山さんとそんなことを話していた。
今朝の天気予報では晴れだと言っていたのに、店の外から微かに聞こえるのは地面に雨粒が叩き付けられる音。
雨の日はやはり気分が下がる。
高校で授業を受けたその足でバイト先にやって来たのだ、せめて天気くらいわたしに味方して欲しかった。
「番号札104番でお待ちのお客さまー。お待たせ致しました、アイスコーヒーです。いつも来て下さってありがとうございます」
不意にマニュアルにない台詞が聞こえてきて、ぼんやりと時計の針が進むのを眺めていたわたしは我に返った。
客席を見れば、商品の受け渡しをしているのは森山さんで、
「あら、こちらこそ美味しいコーヒーをありがとうね。お仕事頑張って」
目尻に笑い皺を入れながらそう言っているのは、わたしも何度か見たことがある常連客だった。
…なるほど。
頭を下げながら笑う森山さんの姿を目に焼き付けながら、わたしは胸の中で独りごちる。
客に認知してもらうのって、意外と嬉しいものなのかもしれない。