愛があなたを見捨てたとしても
カランコロン……


その時、店のドアに設置されているベルが鳴った。


「いらっしゃいませー」


反射的にそう言いながら目を向ければ映るのは、

「……」

あのハンバーガー男だった。


傘を持っていないのか、彼は手ぶらで、例のジャージは雨粒で所々の色が濃くなっている。


目深に被ったキャップはいつも通り、スタスタとレジに並ぶ姿も普段と何ら変わりがないのに、

いつも以上に、寒そうに見えた。


「いらっしゃいませ、店内ご利用ですか?」

「いえ、持ち帰ります」


傘持ってないのに、ハンバーガー持って帰るんだ。

そんな事を考えながら、注文をとっていく。


「ご注文、お伺いします」

「ハンバーガーひとつ、下さい」

「以上でよろしいですか?」


雨に濡れたら、ハンバーガー冷えちゃうんじゃないかな。

ハンバーガー男は、目線を下げたままこくりと頷いた。


「お会計、100円になります」


ここからは流れ作業。

100円を受け取って入力してレシートを発行し、マニュアル通りの台詞を言う。


「レシートと番号札です。お掛けになってお待ち下さい」


でも今回は、自分で考えた言葉を付け加えたかった。


「…あの、」


小さく呼び掛ければ、レシートを取ろうとしていた彼の手の動きが止まった。
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